前編(1)では、オンライン診療を実施可能な「場所」に関して行われた議論についてまとめましたが、11月20日開催の規制改革推進会議では、オンライン診療における診療報酬上のギャップに関する評価見直しに関する議論が後半に繰り広げられています。後編の記事ではオンライン診療の診療報酬上の見直しに関する要望や意見について取り上げます。
後半の議題はオンライン診療の診療報酬上の評価見直しについて
厚生労働省から示された資料の表にもある通り、2018年度の診療報酬改定において「オンライン診療料」が設けられた後、コロナ禍では特例措置が講じられました。2022年度診療報酬改定時にはオンライン診療を行った場合(情報通信機器を用いた場合)は、対面診療時と同等の初診料・再診料、加えて、医学管理料は対面診療時の約87%の点数が算定可能となりました。詳しくは以前の記事(2)で解説しています。
診療報酬は2年ごとに中医協で議論され改定されますが、2024年度診療報酬改定に関する議論がいままさに佳境を迎える中、11月20日の規制改革推進会議においても「オンライン診療の普及に向けた診療報酬の見直し」「精神科・小児科の診療報酬の見直し」が課題として挙げられました。
現場の医師、患者団体、事業者団体それぞれからの現状とのギャップに関する指摘
意見陳述として、日本遠隔医療学会理事である黒木春郎氏、慶應義塾大学医学部特任教授である岸本泰士郎氏、全国「精神病」集団 運営委員の山田悠平氏、日本医療ベンチャー協会理事である原が、この会議に参加しています。
小児科医である黒木氏からは、自施設におけるオンライン診療の状況として、日常的な幅広い疾患を対応していることや、物理的距離に受診行動が影響されないことなどを説明の上、医師の少ない地域にとっては特に患者志向の医療が実現できることや感染症対策における有用性、医療サービスの質そのものの向上が期待できることが説明されました。その上で、現在小児科におけるオンライン診療は診療報酬上対面と差がついている現状を踏まえ、是正すべきであるという見解を述べています。
精神科医である岸本氏からは、精神療法対面診療で行なった群とオンライン診療を併用した群の比較において非劣性であったとする自身の研究成果(J PROTECT試験)について説明がなされました。(なお、会議開催当日においては、本研究は論文未公表でしたが、現在公表されています。)この結果から、現状保険診療においては実施できないオンライン診療での精神療法を対面診療と同様に保険算定すべきという見解を述べています。
患者団体として参加した全国「精神病」集団 からは、およそ半数の患者がオンライン診療を要望しているという実態があるという意識調査を踏まえ、初診を含め精神科においても身体科と同じ枠組での制度化や、医療者との信頼関係を構築する上で対面ありきでの検討が適当であるとは言い難いこと、事例を含め患者の声も踏まえて今後も検討していく必要があることが説明されています。
事業者団体として参加した日本医療ベンチャー協会からは、オンライン診療が一般消費者や患者、または医療者にとっての制度と期待のギャップから生じている現状についての説明がされました。
例えば、株式会社メドレーが行った調査(3)によると、未利用者が「これから使ってみたい」と回答したサービスのうちオンライン診療がトップ(38.5%)でした。一方で、デロイトトーマツが行った調査(4)によると、オンライン診療利用率(2022年)は6.8%と低調で、前年と比較してもサービスの普及が進んだとは言い難い状況です。この背景として、2022年度診療報酬改定においてオンライン診療の診療報酬は大きく改善されたものの、対面診療との差が依然として存在していることが挙げられています。
日本医療ベンチャー協会が報告したオンライン診療の診療報酬に関する医師や医療機関を対象とした実態調査(5)によると、オンライン診療時の診療報酬を「かなり低い」と回答した割合が精神科においては9割にのぼるという結果が示されました。
医療現場および患者団体、事業者団体のそれぞれが、それぞれの立場において、オンライン診療の有用性が発揮できる精神科・小児科において実態と制度が見合っておらず、その要因としての診療報酬の低さを問題視しているということがわかります。
委員からはエビデンスに基づいた議論を求める声
診療報酬上の扱いに関する議論の前に行われたオンライン診療の受診が可能な場所に関する議論において(前半記事参照)、厚生労働省が「オンライン診療には一定の限界があり、実診療の方が対応できる幅が広い」と発言したことを契機に、委員はエビデンスに基づいた議論を求める声が多く上がりました。
意見陳述をした岸本泰士郎 慶應大学医学部教授は、J-PROTECT試験以外にも、コロナ禍を通して蓄積されたオンライン診療に関するエビデンスとして、おおむね治療効果や継続率は対面診療と有意差はなく、むしろで通院時間の短縮や通院費用の減少が認められたというメタ解析の結果を紹介しています。(6)
さらに、津川委員からも、コロナ禍を経て様々公表された様々な論文がエビデンスとして紹介され、エビデンスからはオンライン診療が対面診療よりも劣っているとは言えないという見解が述べられています。例えば、「70〜79歳の高齢者においても3.8%の者がオンライン診療の使用経験があった」という論文の紹介については、「高齢者というのはデジタルツールに不慣れでありオンライン診療の需要がない」という認識がバイアスがかかっているものと改めて筆者も考えさられるものであり、思い込みや自分の経験のみであるべき制度を求めるのではなく、エビデンスを基に適切な議論が必要であると痛感させられました。
このような議論を踏まえ、佐藤座長は「エビデンスを見れば(オンライン診療と対面診療の間に)違いはない、患者からのニーズが高いことは意見集約できた。診療報酬もそれを反映させる必要があるのではないか」と指摘しています。その他、委員から上がった指摘には次のようなものがあります。
結果評価の観点がずれており、「オンライン診療だと粗悪診療が多い」などのバイアスがかかっていることに問題がある。対面診療であれオンライン診療であれ同じようにアウトカム評価を行う必要がある。
伊藤由希子 専門委員
国内外の様々なエビデンスを読み込んだ限り「差がない」というのが現状であると思う。例えば「オンライン診療を受けている人は対面診療にスイッチできない」「オンライン診療は救急車を呼べない」という条件ではない。オンライン診療を受けて危険性があるのであれば救急車を呼ぶ・対面診療にスイッチすることまで加えて、一連の診療をすることができる。
津川友介 委員
エビデンスを読み込んだ限り「差がない」というのが現状であると思う。例えば「オンライン診療を受けている人は対面診療にスイッチできない」「オンライン診療は救急車を呼べない」という条件ではない。オンライン診療を受けて危険性があるのであれば救急車を呼ぶ・対面診療にスイッチすることまで加えて、一連の診療をすることができる。
津川友介 委員
診療報酬に関して制度があるが報酬がつかない。制度ができても物事が進まないという乖離を防ぐ必要がある。厚労省は個別の取り組み、過去の見解ではなく、「エビデンスが出てきたらどのように取り組むのか」「制度と診療報酬の乖離を基本的になくすためにどうするのか」など、大きな仕組み設計を考えていただきたい。
大石佳能子 専門委員
診療報酬上の評価見直しは中医協で決定される事項
厚生労働省は委員等からの指摘を受け、「様々な関係者・学会等の意見を伺い、利用者の視点を重視し、最終的には中医協で引き続き議論を行う。コロナ後に出てきたエビデンスを視野の中に入れながら省内も双方向で議論していきたい」と述べるに留めました。
11月29日に開催された第171回社会保障審議会医療保険部会(7)で公表された「令和6年度診療報酬改定の基本方針」(8)には「遠隔医療の推進」が記載されました。一方、財政制度等審議会財政制度分科会は11月20日(9)に2024年度の予算編成に向けた意見書(10)をとりまとめ、診療報酬について「マイナス改定が適当」と訴えています。
診療報酬改定は中医協(中央社会保険医療協議会)(11)に一任されており、規制改革推進会議が与える影響は他のテーマと比較して小さいものと考えられますが、例年通りであれば12月中に中医協において改定の基本方針が取りまとめられ、来年1月に個別改定項目案が公表される予定です。
終わりに
前編・後編に分けて、2023年11月20日に開催された規制改革推進会議の議論を紹介し、オンライン診療に関する制度や診療報酬が来年以降にどのように変わることが求められているかについてまとめました。コロナ禍を経てその有用性が広く社会に浸透しつつある今、その変化を踏まえた上で診療報酬・法令諸制度も実態にあわせていくことが求められます。
11月20日の議論を踏まえて、12月18日にも改めて規制改革推進会議でオンライン診療がテーマとして取り上げられ改めて議論がされており、12月18日の議論についても改めて後日記事にまとめます。
参考資料
(1)Digital Health Times:今年も規制改革推進会議がスタート!オンライン診療に関する議論状況(前編)
(2)Digital Health Times:【MICIN 記者勉強会】令和4年度診療報酬改定からオンライン診療を紐解く【前編】
(3)株式会社メドレー「オンラインサービス・オンライン診療意識調査」
(4)デロイトトーマツグループ「オンライン診療や薬局によるオンライン服薬指導の認知・利用状況に関する調査結果」
(5)一般社団法人日本医療ベンチャー協会「オンライン診療のさらなる活⽤に向けて」
(6)岸本泰士郎「精神科オンライン診療の普及に向けて:エビデンス構築の立場から」
(7)厚生労働省「第171回社会保障審議会医療保険部会(ペーパーレス) 資料」
(8)厚生労働省「令和6年度診療報酬改定の基本方針(骨子案)」
(9)財務省「財政制度分科会(令和5年11月20日開催)」
(10)財務省財政制度等審議会「令和6年度予算の編成等に関する建議」
(11)厚生労働省「中央社会保険医療協議会(中央社会保険医療協議会総会)」