【MICIN 記者勉強会】令和4年度診療報酬改定からオンライン診療を紐解く【前編】

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2年に1回行われる厚生労働省の大仕事、診療報酬改定。令和4年度診療報酬改定案が2月9日に厚生労働省中央社会保険医療協議会(以下、「中医協」と言う。)での答申が了承されました(1)。2020年冬から未だ終わらないコロナ禍により、今回の改定に向けて中医協では多岐にわたる項目が議論されてきましたが、その中でオンライン診療は一つのトピックとして注目されてきました。

本日、MICIN Public Affairs部門では、今回の診療報酬改定について、オンライン診療に関連する事項を中心として記者勉強会を行いました。今回の記事では、勉強会の前半で行ったオンライン診療に関する診療報酬改定の説明や、参加された記者のみなさまからの質疑について取り上げます。

そもそも診療報酬って?中医協って?

本記事の読者の方はすでによくご存知のことと思いますが、日本の医療において、診療報酬は持続的に質の高い医療を提供する上で重要な要素です。というのも診療報酬は、国民皆保険制度を持つ日本において、保険診療を行う上での個々の治療内容に対する公定価格を決定するものだからです。どれだけ医療機関がよかれと思っても、診療報酬点数が定められていない診療行為を行えば、保険診療上での収益を得ることができません。

かといって、診療報酬がついていないのであれば医療機関が勝手にその診療行為に対する価格を設定できるかというとそれもできません。患者の全額自費負担(自費診療)という形であれば提供することも可能ですが、この場合、他の保険診療行為と組み合わせて医療提供すること(いわゆる混合診療)は一部の例外を除き、制限がかかっています。

この診療報酬を始めとして、「公的医療保険から医療機関に支払われる公定価格」を決定する権限を持ち、審議・答申する機関が中医協です。中医協は、診療報酬以外にも、医療用製品(医薬品や医療機器など)の価格決定の権限も持っています。

中医協は、事務局を厚生労働省保険局医療課とし、20人の委員で構成されており(2)、その内訳は、

  1. 支払側委員:7人(健康保険・船員保険・国民健康保険の保険者・被保険者、事業主、船舶所有者を代表する委員)
  2. 診療側委員:7人(医師、歯科医師、薬剤師を代表する委員)
  3. 公益委員:6人(大学教授など学識経験者といった公益を代表する委員)

となっています。会長は公益委員のうちから選出された委員が務めることとなっています。

オンライン診療の歴史について

本日の記者勉強会では、まず、これまでのオンライン診療に関する制度や診療報酬について、振り返りました。(表1)

表1:2015年の厚生労働省の事務連絡を皮切りに、オンライン診療の制度形成が進んだ

2015年〜2018年

医療アクセスが制限される地域などに限定して行われていた「遠隔診療」が、実質的に全国で実施可能になったのが2015年でした。この年から、少しずつ都市部などにおいても医療機関が試験的にオンライン診療を導入するケースが増加し、第4の医療提供形態として注目され始めます。しかしながら、この段階では診療報酬上の評価はなく、またガイドラインなども整備されていませんでした。(余談ですが、当社のオンライン診療システムcuron(クロン)はこの時期にサービス開始しています。)

2018年〜2020年(新型コロナウイルス感染症流行前)

その後、対面よりも得られる情報が限られるオンライン診療が制限なしに普及することに対する懸念から、オンライン診療の適切な実施に関する指針(以下、「オンライン診療ガイドライン」と言う。)の策定が厚生労働省の検討会で行われました(3)

また、2018年の診療報酬改定で、それまでは診療報酬点数が定められていなかったオンライン診療に対して、個別の診療報酬として「オンライン診療料」が新設されましたが、対面診療と比較して総じて半分以下となっており、また対象となる疾患が極めて限られていた(表2)ことから、オンライン診療の普及という観点では大きなブレーキがかかることになりました。

表2:オンライン診療と相性の良い疾患は多数あるが、オンライン診療が活用できる疾患は限定的

2020年(コロナ禍突入)〜これまで

しかしながら、2020年1月に新型コロナウイルス感染症が国内でも確認されたことをきっかけに、流行拡大の抑制対策の一環として、オンライン診療が再び注目されます。活用推進のために厚生労働省は時限的特例措置として、規制の緩和と診療報酬に関しての変更(4)を行いました。主な変更点については、表3の通りで、対象疾患の制約の撤廃、診療報酬点数の変更、実施要件の変更として初診からのオンライン診療が可能になったことなどがあります。

表3:特例措置以前にオンライン診療が使わなかった原因は対象疾患の制約や診療報酬の低さ等が原因であり、特例措置後普及に至らなかった主たる原因は診療報酬の低さにある

一方、この時限的特例措置は、厚生労働省としても苦慮の末のものであったのであろうことが推察されます。というのも、当時発出された通知(5)を振り返ってみると、「電話等再診」という形で、電話での診療とオンライン診療が一緒に扱われるような形となっていたのです。これは、インフラとしてオンライン診療が国内に普及していない一方、電話再診は実臨床の中で慣習的におこなわれており、オンライン診療の活用や制度に慣れていない医療機関でも速やかに対応できると考えられたためではないかと考えられます。

ただし、オンライン診療料(71点)よりも電話等再診料(73点)の方が点数が高く設定されていたことや、電話等再診料の場合は同時算定可能な医学管理料が限定されなかったこともあり、時限的特例措置下においては、電話等再診料を活用してオンライン診療を行う医療機関も多く、実際にその後の実施状況の推移をみると、表4のように実際にオンライン診療がどの程度使用されているのかの実態がなかなか掴めない状況にもなりました。

表4:電話等を用いて算定した医療機関数の推移は横ばいだが、ほとんどが電話等再診料を算定している

また、時限的特例措置によりコロナ禍前よりは算定可能な診療報酬点数が増点されたとはいえ、対面診療と比較すると算定できる診療報酬は総じて100点以上低い点数でした。対面診療では算定することの可能な管理料などの加算が時限的特例措置下においても引き続き算定できないといった問題もあり(表5)、感染抑制のベネフィットと収益面やその他のデメリットが天秤にかけられた結果、オンライン診療は導入しないとする医療機関の声も多く聞かれました。

表5:特例措置前ではオンライン診療は対面診療に比べて診療報酬が半分以下であり、特例措置下であっても100点以上点数が低い

その後、長引くコロナ禍をきっかけに、様々な業界でDXが大きく進み、医療においてもそれは例外ではありませんでした。その中で、当時の菅政権はオンライン診療の普及を公約の一つの柱として掲げ、2020年秋頃から「オンライン診療の恒久化」の議論が本格的に始まります。

その中でオンライン診療の普及の足かせとなっている大きな要因として診療報酬の問題が挙げられ、議論は厚生労働省から飛び出して政府全体でも行われる等社会的にも注目される中、診療報酬改定を担う中医協ではオンライン診療の議論が続けられました。

公益裁定となったオンライン診療関連の診療報酬改定

中医協では、「オンライン診療の普及推進を掲げる支払側」と、「オンライン診療に慎重な立場を取る診療側」で、この1年間議論がかわされてきました。しかしながら、点数などの細かい点での合意形成が最後まで難しく、最終的に「公益裁定」で決定される(6)という経緯をたどりました。公益裁定とは、支払側と医療側で意見が割れた場合、上述にある中医協の公益委員が最終決定するというもので、今回の中医協ではオンライン診療だけでなく、一般病棟用の重症度、医療・看護必要度についても公益裁定となっています。

時限的特例措置以降のオンライン診療ガイドラインの改定

それでは、具体的に令和4年度診療報酬改定ではどのような変更がなされたか、具体的に見ていきますが、その前に、診療報酬に関する議論と並行して厚生労働省で議論され、この1月に改訂されたオンライン診療ガイドラインについて、診療報酬の議論と連動する話でもあるので少し触れておきます。

時限的特例措置における大きな変更点は初診からのオンライン診療が認められたことでしたが、この1月に改訂されたオンライン診療ガイドラインにおいても引き続き初診からのオンライン診療は認められることとなりました。しかし、新たな遵守事項として以下の3つが加えられています。

  1. 「かかりつけの医師」にて行われることが基本
  2. 診療前相談の新設
  3. 診療・処方においては一般社団法人日本医学会連合作成のガイドライン(7)を参照

いずれも医学的な安全性が疎かにならないようにと加えられた遵守事項と考えられ、検討会でも重点的に議論されたものとなります。

その他、距離の制限について撤廃されるなど、大幅な制度緩和となっています。ガイドラインに加えて、本診療報酬改定における算定要件の変更点をまとめた新旧比較表は表6になります。

表6:2022年診療報酬改定により、現行制度が大幅に緩和された

オンライン診療料の廃止と「情報通信機器を用いた場合」の区分設定

オンライン診療ガイドラインの変更により、初診がオンライン診療から可能になるなど、大幅な制度緩和がなされたことから、オンライン診療に関連する診療報酬の設定も大きく変更になりました。

具体的には、表7のように、これまで設定されてきた「オンライン診療料」が撤廃され、オンライン診療を行った場合(情報通信機器を用いた場合)は、対面診療時と同等の初診料・再診料、加えて、医学管理料は対面診療時の約87%の点数が算定可能となりました。

表7:診療報酬改定により、オンライン診療に係る診療点数(初診料・再診料・医学管理料)が対面診療に近づいた

算定可能な医学管理料が大幅に増えた

また、医学管理料についてはこれまで非常に限られた種類の管理料しか算定できなかったのですが、検査を伴わない医学管理料についてはその多くが算定できることになりました。具体的には、外来診療においては、次の表8・表9の管理料がオンライン診療実施時に算定できるようになりました。ただし、今回の診療報酬改定において、精神医療関連については、医学管理料の加算対象とはなりませんでした。

表8:診療報酬改定により、これまで対象となっていた医学管理料は増点となった
表9:診療報酬改定により、これまで対象となっていなかった医学管理料が対象となった

記者勉強会での質疑応答

参加いただいた記者のみなさまからは、多くのご質問をいただきました。その一部について紹介します。

診察前検査が仮に自宅や薬局で可能になれば、オンライン診療の可能性はより拡大するのではないかと考えられる。全血検査キットの開発や検体採取の手技など課題は多いが、一方で対面診療を組み合わせれば在宅検査までは不要という考えも成り立つ可能性も。今後の可能性や必要性についてはどのように考えるか?

(弊社回答)自宅で可能な検査の拡充によりオンライン診療の可能性が広がることは期待できる。今回の診療報酬改定では検査が不要な管理料について算定が可能となったが、今後自宅での検査が可能になってくれば、要件もまた変わってくるかもしれない。

今後、有効性と安全性の観点から検証されていくと考えられるがその一環で、医師会などが懸念しているのは、「オンライン診療をメインに行う医療機関が全国各地にオンライン診療を展開する」といった診療形態。そのような形態は出てくると考えるか?また、その是非は?

(弊社回答)オンライン診療をメインに扱う医療機関の出現は考えられる。そしてその是非についての判断は難しいが、このような医療機関の出現により今改定から次の改定に向けての変化もありうる。やはり心配としては、オンライン診療メインの医療機関を受診した患者で対面へのアクセスが遅れるようなケースが出てくること。そのような場合は、オンライン診療への逆風がでてきてしまいかねないため、弊社としては慎重に検討していく必要があると考えている。

有効性、安全性について、どんなエビデンスを蓄積していけば対面診療と同等の評価につながっていくかと考えられるか?

(弊社回答)弊社としては、対面と同等というだけでなく、オンライン診療を活用(併用)することでよりポジティブとなるようなエビデンス作りがより重要になってくると考えている。例えば経時的モニタリングやオンラインだからこそ収集できる情報により診療の継続につながる、重症化を予防できる、といった評価をしていくことが重要なのではないかと捉えている。

まとめ

令和4年度診療報酬改定は、国内でオンライン診療を普及していく上で大きなトリガーとなることが期待されます。算定可能となった医学管理料についての考え方についても一部論点は残るものの概ね納得できるものと考えられます。

一方で、大幅な緩和に伴い、不適切利用の助長などがおこらないよう、システム提供企業としてもできる限りの対策を検討していく必要があります。本当の意味でようやくスタートラインに立ったとも言えるオンライン診療を第4の診療形態として根付かせることができるかは、これからにかかっています。

今回の記者勉強会で使用した資料はこちらです。ご興味ある方はごらんください。

参考資料

(1)厚生労働省:中央社会保険医療協議会 総会(第516回)議事次第

(2)厚生労働省:中央社会保険医療協議会委員名簿

(3)厚生労働省:オンライン診療の適切な実施に関する指針

(4)厚生労働省:新型コロナウイルス感染症患者の増加に際しての電話や情報通信機器を用いた診療や
処方箋の取扱いについて

(5)厚生労働省:新型コロナウイルス感染症の拡大に際しての電話や情報通信機器を用いた診療等の
時限的・特例的な取扱いについて

(6)厚生労働省:中央社会保険医療協議会 総会(第513回) 公益裁定 オンライン診療に係る算定要件、施設基準及び点数水準について

(7)日本医学会連合:オンライン診療の初診に関する提言


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