「オンライン診療その他の遠隔医療の推進に向けた基本方針」の周知、今後のオンライン診療・遠隔医療の方針とは

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「withコロナにおけるオンライン診療」(1)(2)でご紹介したように、「オンライン診療の適切な実施に関する指針」が改訂され、新型コロナウイルス感染症の5類移行に伴った特例措置がが近々終了となります。

2023年6月、2021年度より検討が進められてきた「オンライン診療その他の遠隔医療の推進に向けた基本方針(以下、「基本方針」という。)」(3)が大筋合意されました。そして、この基本方針案について、6月6日から6月19日にかけてパブリックコメントが募集され(4)、6月30日に「オンライン診療その他の遠隔医療の推進に向けた基本方針について(通知)」(5)が発出されました。そして、今回の記事では、基本方針が検討された背景、具体的な内容を含めて通知の概要をご紹介します。

基本方針が検討された背景

基本方針が検討されたきっかけは2021年に遡ります。2021年6月に閣議決定された規制改革実施計画(6)において、オンライン診療のさらなる活用に向けた基本方針を策定することが示され、以下のように示されました。

「医療提供体制におけるオンライン診療の果たす役割を明確にし、オンライン診療の適正な実施、国民の医療へのアクセスの向上等を図るとともに、国民、医療関係者双方のオンライン診療への理解が進み、地域において、オンライン診療が幅広く適正に実施されるよう、オンライン診療の更なる活用に向けた基本方針を策定し、地域の医療関係者や関係学会の協力を得て、オンライン診療活用の好事例の展開を進める。」

規制改革実施計画(令和3年6月18日閣議決定)p.24

翌2022年3月に開催された第87回社会保障審議会医療部会(7)から、基本方針について本格的に検討が開始されました。同時期に改訂が予定されていた「オンライン診療の適切な実施に関する指針」の改訂検討と合わせて、5回に渡り同医療部会で検討がなされてきました。そして第99回会合(8)において基本方針案が示され、有識者間での大筋合意に至り、国民への意見募集(6月19日まで実施)を経て、6月30日に厚生労働省から通知として発出されました。

推進方針の中身

「オンライン診療の適切な実施に関する指針」がオンライン診療を行うにあたっての必要なルールを定めたもので、その安全性・質の確保を目的としたものである一方、基本方針は現状のオンライン診療等の課題を踏まえつつ、「適正な推進」をすることを目的としています。

そのため関係者に新たな法令上の義務が課されるのではなく、「最低限遵守する事項及び推奨される事項並びにその考え方」について示されており、「適切なオンライン診療の普及」に向けた方針を打ち出すことを主眼としています。

基本方針は、①オンライン診療等(医師と患者間での遠隔医療)と②医師等医療従事者間での遠隔医療の二部構成に分けられています。(※ここでいう遠隔医療とは「支援・指導等を含む、情報通信機器を活用した健康増進、医療に関する行為(遠隔健康医療相談等の一般的な情報提供を除く)」を意味します。)

オンライン診療等(医師と患者間での遠隔医療)について

まず、基本方針の前半部分である「オンライン診療等(医師と患者間での遠隔医療)」についてですが、基本方針では、オンライン診療等に期待される役割と形態について最初にまとめてられています(9)。

厚生労働省「遠隔医療の更なる活用について」p4

厚生労働省の資料にもある通り、オンライン診療等には様々な形態があり、主な形態として5つが例示されています。

・D to P :患者側に医療従事者の同席なしで医師と患者間で診療を行う

・D to P w/ D :患者側に主治医等の医師が同席する場合

・D to P w/ N :患者側に看護師が同席する場合

・D to P w/ 他:患者側に薬剤師、理学療法士等の医療従事者が同席する場合

・D to P w/ オ:患者側に医療従事者以外のオンライン診療支援者が同席する場合

そして「職員のリテラシー不足」「導入・運用に関する障壁」など現状の課題を挙げた上で、解決の方向性や国、都道府県及び市町村の取り組みがまとめられています。中でも都道府県における取組の中に「第8次医療計画(令和6年度〜)」(10)について以下の通り言及されており、今後も基本方針の改訂や計画の動向を逐次追う必要がありそうです。

【都道府県及び市町村の取組み】
・都道府県は、へき地等医療資源が不足する地域の医療の実情に応じて、第8次医療計画(令和6年度〜)の策定において、オンライン診療等の活用を検討する。

オンライン診療その他の遠隔医療の推進に向けた基本方針(案)p.13

医師等医療従事者間での遠隔医療について

次に、基本方針の後半部分である「医師等医療従事者間での遠隔医療」ですが、近年では日本においても医師等医療従事者間での遠隔医療サービスが多く登場しており、サービス開発が盛んになっています。例えば、この領域の代表例としてしばしば取り上げられる『Join(Allm社)』(11)は、手術室のカメラや血管造影装置の映像、病棟の生体情報モニター等の映像のライブ配信機能を搭載した遠隔医療システムです。

Allm社 HPより

従来、脳卒中介入のための緊急脳卒中ケアを行うためには専門家の監督を必要としており、常時、神経血管内専門医が病院の近くで常に待機している必要がありましたが、Joinを用いることで専門医がたとえ遠隔地にいたとしても患者のケアの質を維持できるようになったと言われています。(12)

なお、JoinはPACS機能を備えているSaMDであることから医療機器の認可も得ており、画像診断⽀援(放射線画像診断など)や診療⽀援(医療コンサルテーションなど)、情報共有を目的としたもの(12誘導⼼電図伝送)や教育・学習(遠隔カンファレンス)など幅広い目的で使用されています。

Joinのような製品を活用するなど、医師等医療従事者間の遠隔医療の適正な推進にあたっては、遠隔にいる医師等の役割と責任の範囲の明確化や、個人情報保護法制に沿った患者の医療情報の共有などが課題になると基本方針では指摘されています。

その上で国や都道府県・市町村等に対しては、医師や医療機関が導入する際の参考となる事例集の作成など普及啓発に向けた取り組みを求めています。またオンライン診療の時と同様に、「第8次医療計画(令和6年度〜)の策定において遠隔医療の活用を検討」することが示されています。

今後のオンライン診療・遠隔医療について

オンライン診療および遠隔医療は患者の負担軽減やより良い医療サービスの提供に資するだけでなく、医師の働き方改革にも寄与する性質も持ち合わせています。来年2024年4月からは「医師の働き方改革」が本格的に開始しますが、「オンライン診療の適切な実施に関する指針」とともに基本指針が作成されたことを受け、オンライン診療の適切な普及に向けた各ステークホルダーの取り組みが一層進むことが期待されます。

例えば、今回の指針で示された「第8次医療計画」の策定や2023年度規制改革実施計画(13)で盛り込まれた「都市部におけるオンライン診療用の医師非常駐の診療所」に関する議論が開始される予定です。

<実施事項>
ア 通所介護事業所や公民館等の身近な場所におけるオンライン診療の受診の円滑化
厚生労働省は、個別の患者が居宅以外にオンライン診療を受けることができる場所について明らかにするとともに、デジタルデバイスに明るくない高齢者等の医療の確保の観点から、今般へき地等において公民館等にオンライン診療のための医師非常駐の診療所を開設可能としたことを踏まえ、へき地等に限らず都市部を含めこのような診療所を開設可能とすることについて、引き続き検討し、結論を得る。

厚生労働省「規制改革推進に関する答申(令和5年6月1日規制改革推進会議)(抜粋)

これについては、オンライン診療・遠隔医療が普及し、その恩恵を多くの医者や患者が受けられるようになることも期待される一方で、m3社による調査(14)では「都市部は医療機関が既に多くあり、ニーズがどこまであるのか」という慎重論も根強くあがっており、議論の行末については今後も追っていく必要があるでしょう。

参考資料

(1)Digital Health Times「withコロナに向けたオンライン診療(前編)

(2)Digital Health Times「withコロナに向けたオンライン診療(後編)

(3)厚生労働省「オンライン診療その他の遠隔医療の推進に向けた基本方針

(4)e-govパブリックコメント「オンライン診療その他の遠隔医療の推進に向けた基本方針に関する御意見の募集について
(5)厚生労働省「オンライン診療その他の遠隔医療の推進に向けた基本方針について(通知)

(6)内閣府「規制改革実施計画(令和3年6月18日閣議決定)

(7)厚生労働省「第87回社会保障審議会医療部会

(8)厚生労働省「第99回社会保障審議会医療部会

(9)厚生労働省「遠隔医療の更なる活用について

(10)厚生労働省「医療計画関連通知 第8次医療計画

(11)アルム「Join 医療関係者間コミュニケーションアプリ

(12)Ishibashi T, et al. “Remote neuro-endovascular consultation using a secure telemedicine system

(13)厚生労働省「規制改革実施計画(令和5年6月16日閣議決定)

(14)m3「都市部に医師非常駐の診療所、開業医64.7%「反対」

(15)総務省「遠隔医療モデル参考書‐医師対医師(D to D)の遠隔医療版‐

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