規制改革推進に関する答申から振り返るSaMDの議論の変遷(前編)

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2023年6月1日、内閣府規制改革推進会議は「令和5年度規制改革に関する最終答申」(1)を公表し、この最終答申に基づき、同年6月16日に「規制改革実施計画」(2)が閣議決定されました。2022年10月に開催された「規制改革推進会議第1回医療・介護・感染症対策ワーキング・グループ」(3)で業界団体がSaMDに関する規制改革要望を述べて以降、SaMDに関する議論は様々行われてきました。内閣府が公表した規制改革推進に関する答申は、これらの議論の変遷を確認する上で有用な資料といえます。

そこで、今回の記事では、まず2022年10月において各業界団体が要望した事項をまとめ、次回の記事で2022年12月に公表された中間答申(4)、そして2023年6月に公表された最終答申の相違点を比較しつつ、現在進んでいる検討や対応について触れたいと思います。

各業界団体の要望のまとめ

2022年10月20日に開催された「令和4年度規制改革推進会議第1回医療・介護・感染症対策ワーキング・グループ」では、議題として「プログラム医療機器(SaMD)の開発・市場投入の促進について」が取り上げられ、日本デジタルヘルス・アライアンス(JaDHA)(5)、日本医療機器産業連合会(医機連)(6)、日本医療ベンチャー協会(JMVA)(7)の3団体がそれぞれの要望(3)について意見を述べました。

以下に、各団体の要望内容の概要を以下の表にまとめます。

表 各業界団体の主な要望概要

この表の通り、3団体で細かい点は異なるものの共通する要望は大きく2つに分けられます。

薬事制度に関する要望について

医機連はリバランス通知の改訂、JaDHA・JMVAは条件付き早期承認制度の導入と微妙な違いはありますが、いずれもSaMDという製品の特性を考慮し段階的な承認のあり方を要望しています。再生医療等製品ではすでに条件付き早期承認制度が運用されているという実績や、ドイツのDiGA制度を参考とした要望といえるでしょう。

保険上の評価に関する要望について

保険上の評価について示されているプログラム医療機器の実例は限られていることから、事業者がプログラム医療機器を事業として開発を進めるかどうかを検討する上で、基本的な評価の考え方の整理や段階的な承認を実現していく場合の保険のあり方、保険外併用療養の活用について、が主な要望となっています。

会議での意見交換について

これら3つの業界団体からの意見陳述後、規制改革推進会議の委員が行政側へ具体的な対応状況について説明を求めています(8)。

例えば、段階的な承認方法の具体的な検討について、リバランス通知の改訂が良いのか、条件付き早期承認制度を新たに策定することが良いのか、といった議論がなされており、業界団体によってこの点については意見が分かれていますが、行政側は具体的な検討をこれから行っていくという旨を回答しています。また、現行法では難しい点については、そのように回答をとどめています。

一方で、このような回答に対して、委員からは「現行法上は無理だという回答であるが、現行法上無理でもそれができるようにしてほしいという要望が出ているのだから、現行法上できませんというのは答えになっていない」という厳しい指摘もなされています。

その他、今回の3業界団体からの要望には含まれていなかったものの、2020年の規制改革推進会議で要望が上がっていたFDAのPre-cert Pilot Program(9)に類する制度の検討や、まずは届出での承認とし市販後のリアルワールドデータで性能向上させていくのはどうかといった業界団体の要望以上の規制緩和方法が複数の委員から積極的に提案され、現行法体系上の整合性だけではなく、産業政策的な視点を持ってSaMD産業を推し進めて欲しいという意見でまとめられていました。緊張感あふれる会議当日の議論にご興味のある方は、議事概要が公開されていますのでご確認ください。

これらの議論を経て…

規制改革推進会議では、各会議で様々な要望に対する議論がなされ、「規制改革推進に関する答申」としてまとめられ、規制改革実施計画の土台とされます。SaMDに関する本会議の議論がどのような形で答申としてまとめられたのか?については次回以降の記事でご紹介したいと思います。

参考資料

(1)内閣府規制改革推進会議:令和5年度 規制改革に関する最終答申

(2)内閣府規制改革推進会議:令和5年度 規制改革実施計画

(3)内閣府規制改革推進会議:規制改革推進会議第1回医療・介護・感染症対策ワーキング・グループ

(4)内閣府規制改革推進会議:令和5年度 規制改革推進に関する中間答申

(5)Digital Health Times:SaMD開発促進のために活動する業界団体の動向(1)

(6)Digital Health Times:SaMD開発促進のために活動する業界団体の動向(2)

(7)日本医療ベンチャー協会

(8)内閣府規制改革推進会議:第1回 医療・介護・感染症対策ワーキング・グループ議事概要

(9)FDA:Digital Health Software Precertification (Pre-Cert) Pilot Program

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