2022年に始まった英国のデジタルヘルス政策「EVA」について

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英国におけるデジタルヘルスに関する以前の記事(1)では、デジタル療法(Digital Therapeutics、DTx)を含めたデジタルヘルスに関連する英国における医療機器の制度動向を取り上げました。2022年には、英国では新たな製品評価プログラム「Early Value Assessment(以下、EVA)」を開始するといった動きを見せています。今回の記事では、英国のデジタルヘルス政策に関連する動向として、EVAについてご紹介します。

EVA(Early Value Assessment)とは?

英国においてデジタルヘルス技術に関してエビデンスに基づいたガイダンスを作成・公表しているのは、NICE(National Institute for Health and Care Excellence/英国国立医療技術評価機構)です。NICEは2022年6月15日、新たな取り組みとして、医療機器評価のプログラム「EVA(Early Value Assessment)」を開始しました。

NICEは、2021年4月に発表した5か年計画において「迅速で応答性の高い技術評価」を第1の柱として掲げ、これまで様々な施策を展開してきました。EVAはその戦略に沿い、患者や広く社会にとって重要となる文やのデジタルヘルス製品を早期に評価し、患者や介護者が適切に選択できるようにすることを目的としたもので、2023年3月までのパイロットプログラムの実施が公表されています。

また、2023年春の予算方針では英国政府が政策的に優先する「高成長分野(high growth sectors)」としてライフサイエンスとデジタル技術が指定されており、パイロットプログラムの結果を踏まえて新たな制度の新設が期待されています。

EVAの申請プロセス

EVAは、NICEが決定した「医療および社会システムにとって価値がある」分野における技術を評価対象とした制度です。2022年年6月に開始した最初のパイロットプログラムでは「こどものうつ病」「不安症」という2つの分野が特定されており、現在では成人のメンタルヘルス、がんの早期診断、心血管疾患など10の医療技術に範囲を拡大しています。

EVAの対象となる技術の最低要件として

  • UKCAマークやCEマークという英国または欧州における規制要件を満たしていること
  • 現在NHSで使用されていること、もしくは、今後6か月以内に導入されること

があり、全ての製品がEVAの該当となるわけではありません。

EVAの特徴は、既存のNICEガイダンスに基づいた医療技術評価プロセス(Health Technology Assessment、以下「HTA」)とは異なり、評価前に該当製品もしくは技術に関する大量のエビデンスを生成する必要がないという点にあります。

該当する製品や技術をEVAに申請すると、まずその製品を使用する患者や介護者(家族など)にとって臨床効果があるか、また社会システムにとってコストの低減など費用対効果があるかを「公募で選出された専門家」が「推定」します。

早い段階でその製品や技術を「推定」レベルでも評価することで、臨床現場に早く新しい技術を届けることができ、それによって現場からのフィードバックによって日々更新できれば、デジタルヘルス製品の強みを最大限活かすことができます。NICEがEVAを通じて「使用を勧奨する」と決定した場合、専門家を交えて上市後のエビデンス生成計画が立案され、一定期間の上市が許されます。

EVAの評価プロセス

EVAにより「推奨」(上市)されている製品

パイロットプログラムの結果、NICEはいくつかのデジタルヘルス製品を「推奨」と認定しています。例えば、EVAとして初めてとなるパイロットプログラムで扱った「こどものうつ病」では以下の4製品を推奨しています。

  1. Lumi Nova Tales of Courage(BfB Labs社):7歳から12歳の子供向けのゲーム形式のDTx。銀河系ロールプレイングゲームの中に曝露療法と心理教育的コンテンツが組み込まれている。
  2. Online Social anxiety Cognitive therapy for Adolescents (OSCA):14歳から18歳の青少年の社会不安に対する認知療法のインターネットプログラム
  3. Online support and intervention for child anxiety (OSI):不安の症状を持つ5歳から12歳の子どもを対象に、親が主導し、セラピストがサポートするインターネットを利用した心理的介入アプリ。
  4. ‘Space from’ series(SilverCloud社):15~18歳のシンパを対象としたCBTシリーズ

また「成人のうつ病および不安障害」に対しては以下のDTxが効果検証の結果、推奨されています。

  1. Perspectives(マサチューセッツ総合病院):身体醜形障害
  2. Beating the Blues(Amwell社):不安障害
  3. Space from Anxiety(Amwell社):不安障害
  4. iCT-PTSD(オックスフォード大学):心的外傷後ストレス障害
  5. Spring(カーディフ大学・Healthcare Learning社):心的外傷後ストレス障害
  6. iCT-SAD(オックスフォード大学):社会不安障害
  7. Beating the Blues(SilverCloud社)
  8. Space from Depression(SilverCloud社)
  9. Deprexis(GAIA社):うつ病

EVAによって「条件付きの使用推奨」認定を受け、適切なエビデンスを期間内に得られた技術のその後はまだ未定です。EVAを管轄するNICEはNHSと協力して製品の保険償還などのプロセスを検討しています。EVAのパイロットプログラムは2023年3月末まで行われる予定で、近日中に計画の詳細が明らかになると思われます。

EVAが英国の製品評価に与える影響と日本への示唆

EVAは、治験やRWDを活用した検証を市販後に実施することを条件に、非臨床評価による有用性及び安全性の評価をもって「条件付きの使用推奨」を認定するという評価プロセスであり、ドイツのDiGA Fast Track(デジタルヘルスアプリに関する特例制度)に類似するパイロットプログラムです。

2022年6月、サジド・ジャビッド元保健・社会福祉担当国務長官は、ヘルスケアに関する計画「A plan for digital health and social care」を発表し、「EVAで承認した製品は、単一の国家的枠組みを通じて一部地域で活用できるようになります。完全な評価の段階で合格した製品はNHSで広く使用することが承認される可能性があります。」と説明しており、EVAを通じた新しい技術の早期承認プロセスの確立や、その後の正式な保険償還などのプロセスが期待されます。EVAを使ってデジタルヘルス製品を早期に上市させたいと考える企業が多くなれば、英国が「企業を立地し、投資し、成長するためのヨーロッパで最高の場所」になる日も近いかもしれません。

日本でも2022年12月に次年度の政府全体の規制改革方針をまとめた「規制改革推進に関する中間答申」が公表され、プログラム医療機器(SaMD)の特性を生かした早期上市を実現するため、二段階の薬事承認プロセスやSaMDの特性に合わせた保険償還プロセスを導入する方針が盛り込まれ、今まさに制度設計の議論が進んでいるところです。英国の動向を始め諸外国の事例も参考にしつつ、患者や介護者、事業者、保険者にとってのベストミックスを考えていく必要があります。

参考資料

(1)Digital Health Times:英国でも加速するデジタルヘルス政策
(2)Digital Health Times:DVGから見えるドイツのデジタルヘルスへの期待
(3)NICE
(4)NICE:Early Value Assessment (EVA) for medtech
(5)NICE:NICE’s Early Value Assessment for Medtech: panning for nuggets of innovation gold
(6)NICE:PMG39 Early value assessment interim statement:appendix 1
(7)NICE:NICE strategy 2021 to 2026
(8)NHS
(9)Gov.UK:A plan for digital health and social care
(10)Gov.UK:SPRING BUDGET 2023
(11)COVINGTON:EU Talking Life Sciences Audiocast: Episode 2 – Key Developments in the Medical Device Sector – State of Play in the EU and UK
(12)Pharmaphorum:More digital mental health therapies backed for NHS use
(13)Pharmaphorum:NICE says yes to digital CBT for children with anxiety
(14)規制改革推進会議:規制改革推進に関する中間答申

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