今年も規制改革推進会議がスタート!オンライン診療に関する議論状況(前編)

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例年よりもやや遅めのスタートではありますが、規制改革推進会議(1)が11月から本格的にスタートしました。同会議ではテーマごとに作業部会を設けて関係省庁や有識者の参加のもと改革案を作ります。医療分野においては健康・医療・介護WG(2)が主たる議論の場であり、11月20日に開催された会合(3)では、Digital Health Timesでも継続的に取り上げてきたオンライン診療が議題として取り上げました。

今回の記事では、11月20日の議論における方向性について前後編で取り上げます。

前半の議題はオンライン診療の受診が可能な場所について

例えば、社会に定着したオンライン会議ツールは、法律上はどこで利用しても問題にはなりませんが(もちろん会議内容が聞かれないように、雑音が入らないように、など配慮することはビジネスリスクやマナー上求められます。)、オンライン診療は、患者が受診できる場所が医療提供施設または居宅等のいずれかに限られています。これは他のあらゆる医療行為と同様に、医療提供施設の開設・管理に関する事項などを定めた医療法(4)に基づくものです。

具体的には、2018年に策定された「オンライン診療の適切な実施に関する指針」(5)では、患者がオンライン診療を受ける場所は「対面診療と同程度に清潔かつ安全」であり、「プライバシーが保たれる物理的に隔離される空間」である必要があると規定されています。また医療法において居宅等に該当する施設(例えば養護老人ホーム)であっても、公衆または特定多数人に対してオンライン診療を提供する場合は診療所の届出が必要となり、医師の駐在や管理者の設置等の安全体制を構築する義務が発生します。

オンライン診療は物理的距離によって制限されている患者の医療アクセスの機会を向上させることができるというメリットを持っており、コロナ禍以降、オンライン診療の有用性を発揮できるような規制緩和が続いてきました。そのひとつとして、厚生労働省は2023年5月18日に事務連絡「へき地等において特例的に医師が常駐しないオンライン診療のための診療所の開設について」(6)を発出し、医療アクセス機会が少ないへき地において特例的に公民館等に診療所を設置する事を認めています。

一方、この事務連絡が発出されたことに対して、今回の規制改革推進会議では今年6月に閣議決定された「規制改革推進に関する答申」(7)では以下のように示され、へき地に限らず、都市部においてもオンライン診療用の医師非常駐の診療所を認めるか否かが論点として以下のように挙げられています。

厚生労働省は、個別の患者が居宅以外にオンライン診療を受けることができる場所について明らかにするとともに、デジタルデバイスに明るくない高齢者等の医療の確保の観点から、今般へき地等において公民館等にオンライン診療のための医師非常駐の診療所を開設可能としたことを踏まえ、へき地等に限らず都市部を含めこのような診療所を開設可能とすることについて、引き続き検討し、結論を得る。

厚生労働省 医政局提出資料 より抜粋

衛生管理を理由に全面解禁に慎重であるべきとする厚生労働省の見解

規制改革実施計画の内容をうけて、11月20日の規制改革推進会議 健康・医療・介護WGに出席した所管官庁の厚生労働省は、規制改革の方向性について次のように提起しています。

オンライン診療のための医師が常駐しない診療所を開設可能としている特例範囲を、へき地等に加え、「専門的な医療ニーズに対応する役割を担う診療所において、オンライン診療によらなければ住民の医療の確保が困難であると都道府県において認められるもの」と拡大するとしてはどうか。

厚生労働省 医政局提出資料 より抜粋

つまり、厚生労働省の主張は、「オンライン診療には一定の限界があり、実診療の方が対応できる幅が広い」という考え方に立っており、へき地または都道府県が指定した地域以外に診療所の特例を認める必要はないというものです。

さらに、通所介護事業所等を医療法上の「居宅等」に認める案については、「衛生管理上の介護事業所の責任とオンライン診療の医師の責任との責任分界点が曖昧になる」ことを理由に取り上げませんでした。そのため通所介護事業所や学校でオンライン診療を受けるためには同場所内での診療所を開設し、必要な安全管理体制を整えたうえで実施する必要があると結論付けました。

規制緩和を求める事業者団体からの声

この点について、ヒアリングとして招かれた事業者団体(日本デイサービス協会)は通所介護事業所でのオンライン診療の受診について「有用性がある」と主張しました。利用者にとっては「定期受診時の通院負担軽減」や「家族負担の軽減(通院同伴による仕事を休む機会が減る)」、事業所側にとっては「通院理由の利用休止の減少」「ヘルパーの人材不足低減」という双方のメリットがあると強調しています。

また、同じくヒアリングとして招かれた石川県能美市も、「都会、地方、過疎問わず全国共通の課題解決になりうる」とオンライン診療のための医師非常駐の診療所開設に関する特例措置を全国に適用することを求めています。能美市は、市内病院でオンライン診療を施行検証した事例を紹介し、高齢者が普段生活している環境での観察や問診により、在宅医療・介護の判断に有用であると説明しています。また高齢者宅には適切なインターネット環境やデジタル機器がない場所もあり、ヘルパーがいる場所で補助を受けながらオンライン診療を受けられるようになると医療アクセス機会の向上につながると述べています。

委員から厚労省の見解に異論が噴出

要望した団体・自治体以外だけでなく、出席した委員からは、衛生上のリスクが高まらないことを理由に通所介護事業所等を医療法上の「居宅等」に位置づけ、診療所の開設を不要とするべきという意見が指摘されました。

佐々木淳専門委員(医療社団法人悠翔会)は「具合が悪い人が出かけるならばデイサービスではなく診療所に行く。デイサービスは衛生管理されており、下痢・嘔吐する人への対応もされている。」と通所介護事業所の衛生管理に問題はないと主張し、厚労省案に真っ向から意見を述べています。

また佐藤主光座長(一橋大学)は厚生労働省が前提とする「対面診療はオンライン診療よりも優れている」という考え方を「エビデンスに基づいて、また現場・患者の視点に立ってオンライン診療の普及を考える必要がある」と主張し、これについては本会議に同席していた河野太郎規制改革担当相も同意していました。主な構成員の意見は以下の通りです。

医療の受診の場所が「医療提供施設か患者の居宅等」という定義はオンライン診療が出る前につくられた制度である。医師と患者が地理的に異なる場にいることは想定されなかったと考えられる。オンライン診療の時代においては医療者がいる場所と患者がいる場所を分けて考える必要がある。

津川友介 委員(カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)医学部

医療アクセスについては地理的な要件だけではない。都会でも医療アクセスが悪い人がいる。現役世代は時間がかかるため病院に行くことができず、治療や発見が遅れる場合が現実として起こっている。

佐々木淳 専門委員

「居宅等」とは居宅と通所介護事業所が並列されているが、居宅の場合は衛生管理はされていない可能性がかなり高いと考えている。そもそもなぜ主たる居宅の方で衛生管理が読まれていないにもかかわらず、そのほかのものについて衛生管理を議論することは全く理解できない。

落合孝文 委員

後半に続く…

後半の記事では、議題のもうひとつとして取り上げられたオンライン診療の診療報酬上の扱いについてご紹介します。

参考資料

(1)内閣府「規制改革推進会議について」
(2)内閣府「規制改革推進会議 健康・医療・介護 ワーキング・グループ」
(3)内閣府「第2回 健康・医療・介護ワーキング・グループ  議事次第」
(4)e-gov法令検索「医療法」
(5)厚生労働省「オンライン診療の適切な実施に関する指針」
(6)厚生労働省「へき地等において特例的に医師が常駐しないオンライン診療のための診療所の開設について」
(7)厚生労働省「規制改革推進に関する答申(令和5年6月1日規制改革推進会議)(抜粋)」

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