withコロナ に向けたオンライン診療(後編)-時限的特例措置終了に伴う変更について-

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前回の記事(1)では、オンライン診療指針の改訂について取り上げましたが、指針の改定と同時期に、厚生労働省は新型コロナ5類移行に伴い発出した通知の中で、オンライン診療に関する変更についても周知しています。

関連する通知の1つ目は2023年3月17日に発出(5月16日に改訂)された「新型コロナウイルス感染症の感染症法上の位置づけの変更に伴う医療提供体制の移行及び公費支援の具体的内容について」(2)(以下、「3月17日事務連絡」という。)、2つ目は2023年3月31日に発出された「「新型コロナウイルス感染症の感染症法上の位置づけの変更に伴う新型コロナウイルス感染症に係る診療報酬上の臨時的な取扱いについて」等の一部訂正について」(3)(以下、「3月31日事務連絡」という。)です。

今回の記事では、新型コロナウイルス感染症の法律上の位置づけの変更による、オンライン診療特例措置終了に伴う変更について取り上げ、これらの通知で公表されたオンライン診療の特例措置や診療報酬上の変更点を簡単に解説します。

コロナ禍における時限的特例措置

新型コロナ感染拡大が始まった2020年4月、厚生労働省は、病院内等での感染リスクを低減することを目的に、時限的特例措置として、電話や情報通信機器を用いた診療に係る規制の緩和と診療報酬に関しての変更(4)を行いました。

(遠隔医療を全国で実質的に行うことができるようになった2015年からコロナ禍・ポストコロナにいたるオンライン診療関連の制度の変遷は(5)で紹介していますのでご参考ください。)

この時限的特例措置の開始前までは、オンライン診療を実施する場合、初診を対面診療で行うことが必須であり、また診療計画の策定や対象患者・算定回数等の条件など厳格な実施要件が設けられていましたが、特例措置により初診からのオンライン診療が可能になりました。また、初診の場合は214点(2140円相当)を算定できるようになり、診療計画策定や算定回数等の諸条件は不要となりました。

図1 時限的特例措置における変更のまとめ

2022年4月の診療報酬改定に伴う変更

2022年1月、厚生労働省は「オンライン診療の適切な実施に関する指針」(6)を改定しオンライン診療を恒久的な制度と認定し、2022年度の診療報酬改定に伴い初診料(情報通信機器を用いた場合)251点(2510円相当)をはじめとし、オンライン診療で算定できる診療点数を改めて設けました。

図2 2022年診療報酬改訂に伴うオンライン診療に関する診療点数の推移

また、医学管理料の変更点は以下の図3、図4の通りで、検査を伴わない医学管理料は2022年診療報酬改定で新たに算定できるようになりました。

図3 2022年以降算定可能な医学管理料①
図4 2022年以降算定可能な医学管理料②

5類移行後のオンライン診療について、厚労省が通知を発出

その後、新型コロナウイルス感染症の5類感染症移行に伴い、2020年より行われてきた特例措置が見直されることになりました。3月17日事務連絡では、5類への位置づけ変更後もオンライン診療等の時限的・特例的な取り扱いは引き続き実施する一方、時期は明らかにしないものの近い将来終了することが明言されました。

「新型コロナウイルス感染症の拡大に際しての電話や情報通信機器を用いた診療等の時限的・特例的な取扱いについて」(令和2年4月10日付け事務連絡)に基づく、電話や情報通信機器を用いた診療等の時限的・特例的な取扱いについては、位置づけ変更後においても、引き続き実施する。」

3月17日事務連絡p.28

「ただし、当該時限的・特例的な取扱いについては、新型コロナウイルス感染症の感染が収束するまでの間継続するとしているが、具体的には、院内感染のリスクが低減され、患者が安心して医療機関の外来を受診できる頃に終了することを想定している」

3月17日事務連絡p.28

また、オンライン診療等の「診療報酬」に関する特例は終了することが3月17日事務連絡で明らかになりました。そのため、保険診療においてオンライン診療を実施する場合は、どの医療機関も令和4年度診療報酬に基づきオンライン診療を実施する必要があります。

「なお、「新型コロナウイルス感染症の拡大に際しての電話や情報通信機器を用いた診療等の時限的・特例的な取扱いについて」による電話・オンライン診療に係る診療報酬上の特例措置については、令和4年度診療報酬改定において情報通信機器を用いた初診及び再診に対する評価が設けられたことを踏まえ、令和5年5月8日以降、経過措置を置いた上で廃止することを予定しているため、ご留意いただきたい。」

3月17日事務連絡p.29

診療報酬の具体的な変更点は3月31日事務連絡で明らかになっていますが、時限的・特例的な取り扱いの終了日は7月31日とされ、それ以降もオンライン診療を行う医療機関は7月31日までに施設基準を地方厚生局長まで提出する必要があります。それまでは施設基準を提出しなくとも特例措置により初診料214点を算定することが可能でしたが、2023年8月以降は施設基準を提出していなければオンライン診療による保険点数を算定することはできなくなります。

「電話や情報通信機器を用いた診療等(オンライン診療等)に係る特例は令和5年7月31日をもって終了する。」

3月31日事務連絡p.4

「令和5年8月以降も情報通信機器を用いた診療を行おうとするものについては、251点(A000初診料の注1ただし書きに規定する点数)を算定できるよう、令和5年7月31日までに情報通信機器を用いた診療に係る施設基準を届け出ること。」

3月31日事務連絡p.4

特例措置終了に伴い8月以降オンライン診療で算定できない診療報酬項目について

3月31日事務連絡に記載の通り、特例措置終了に伴い8月1日以降はオンライン診療では算定することができなくなる主な診療報酬項目は以下となります。

オンライン診療等に係る特例(医科)

  • 電話再診料(73点)又は外来診療料(74点)
  • オンライン診療による初診料(214点)
  • 医学管理料(電話等再診時)(147点)
  • 訪問看護・指導体制充実加算(150点)
  • 通院・在宅精神療法 (147点)※1
  • 小児科における初診料(214点)※2
  • がんゲノムプロファイリング評価提供料(12,000点)

※1 時限的特例措置下では、精神科で行われるオンライン診療において通院・在宅精神療法が算定されていたケースが多かったのですが、こちらについては特例措置終了に伴い、算定できなくなります。

※2 2022年度診療報酬では、小児科外来診療料ではなく通常の初診料(情報通信機器を用いた場合)の算定となる旨、疑義解釈(7)において明記があるため。

オンライン診療等に係る特例(歯科)

  • 歯科初診料・地域歯科診療支援病院歯科 初診料(185点)
  • 歯周病患者画像活用指導料(10点)

オンライン診療等を用いた服薬指導等

  • 薬学管理料
  • 服薬管理指導料(43 点、57 点)
  • 在宅患者訪問薬剤管理指導料(43点)
  • 在宅患者緊急訪問薬剤管理指導料(200点)

オンライン診療等を用いた訪問看護

  • 訪問看護管理療養費(3000点)

医師が常駐しないオンライン診療のための診療所の開設について

さらに、厚生労働省は5月18日に「へき地等において特例的に医師が常駐しないオンライン診療のための 診療所の開設について」という事務連絡(8)を公表し、へき地に限り医師が常駐しないオンライン診療の診療所の設置を認めることを明らかにしました。ここでいう「へき地」とは無医地区・準無医地区、離島振興法や奄美群島振興開発特別措置法などが規定している地域です。

背景には、2022年6月に公表された規制改革実施計画において「厚生労働省は、通所介護事業所や公民館等の身近な場所での受診を可能とする必要があるとの指摘があることや、患者の勤務する職場においてはオンライン診療の実施が可能とされていることも踏まえ、デジタルデバイスに明るくない高齢者等の医療の確保の観点から、オンライン診療を受診することが可能な場所や条件について、課題を整理・検討し、結論を得る。」という方針が示されたことにあると考えられます。

現状、医師が常駐しない診療所を設置するためには以下の規定をクリアすることが必要となります。

  1. 診療所の管理者と医療スタッフが常時連絡を取れる体制を確保する等、医療法に規定する管理者としての責務を確実に果たすことができるようにすること
  2. 都道府県等によって「オンライン診療の適切な実施に関する指針」の規定を遵守している診療所であることを実地調査を通じて確認されていること
  3. 患者急変時に対面で対応可能な医療機関名を提出すること
  4. 概ね1年毎に指針を遵守可能な体制を整えているか確認すること
  5. オンライン診療の実施件数について地域関係者や学識経験者に報告すること

この事務連絡の対象となる地域がへき地に限られており、オンライン診療の普及への影響は小さいと考えられることから、2023年5月19日の規制改革推進会議 医療・介護・感染症対策WGでも、この点について有識者による議論が行われ、へき地のみならずニーズのある都心部での実施も認めるべきだという趣旨の発言もあったと報道されており、6月1日の規制改革推進に関する答申(9)にもその旨含まれました。今後どのように規制改革推進において検討されていくのかは未知数ですが、都心部や医師不足(偏在)が懸念される地方でも「医師が常駐しない診療所」の開設が現実となるのかもしれません。

今後のオンライン診療普及に向けて

新型コロナに際しての時限的・特例的措置により、オンライン診療はコロナ禍前に比べれば急速に拡大しています。2022年診療報酬改定時には様々な実施要件や施設要件が緩和され、普及に向けた一つの施策として期待されていました。

一方で、オンライン診療の導入医療機関は2022年12月時点で全医療機関の16.1%とほぼ横ばい傾向が続いており、都道府県による利用頻度差(10)も生じていると指摘されています。その背景は様々ですが、医療を必要とするメイン層である高齢者がスマートフォン等の機器の使用に慣れていないこと、医療機関側にとって新しいシステム導入が手間であること、オンライン診療のユースケースは拡大傾向にはあるものの限定的であること、対面診療との診療報酬上の相違、セキュリティリスクへの対応などがしばしば指摘されています。

一方で、前回の記事でも紹介したとおり、規制緩和に伴い以前よりオンライン診療が実施されるようになったことで、「なりすまし」や「不適切な診療」の事例も業界団体等から指摘され、新たな課題として表出してきており、今後の規制動向も流動的な部分はあるかもしれません。

今回は前編・後編に分けて、新型コロナの5類移行等に伴うオンライン診療に関する変更点を簡単に解説しました。日本におけるオンライン診療促進の契機となった新型コロナ特例措置が早晩終了する今、オンライン診療の価値と課題を今一度見つめなおし、医療を必要とする多くの人へ適切な形で届けるために、医療機関・事業者・地方自治体など様々なステークホルダーがオンライン診療のあり方を引き続き模索していく必要があります。

参考資料

(1)Digital Health Times:withコロナに向けたオンライン診療(前編)-オンライン診療指針の改訂について-

(2)厚生労働省事務連絡(令和5年3月17 日、令和5年5月16日最終改正):新型コロナウイルス感染症の感染症法上の位置づけの変更に伴う医療提供体制の移行及び公費支援の具体的内容について

(3)厚生労働省事務連絡(令和5年4月20日):「新型コロナウイルス感染症の感染症法上の位置づけの変更に伴う新型コロナウイルス感染症に係る診療報酬上の臨時的な取扱いについて」等の一部訂正について

(4)厚生労働省事務連絡(令和2年2月28日):新型コロナウイルス感染症患者の増加に際しての電話や情報通信機器を用いた診療や処方箋の取扱いについて

(5)Digital Health Times:【MICIN 記者勉強会】令和4年度診療報酬改定からオンライン診療を紐解く【前編】

(6)厚生労働省:オンライン診療の適切な実施に関する指針(令和5年3月一部改訂)

(7)厚生労働省(令和2年4月24日):新型コロナウイルス感染症に係る診療報酬上の臨時的な取扱いについて(その14)

(8)厚生労働省(令和5年5月19日):へき地等において特例的に医師が常駐しないオンライン診療のための診療所の開設について

(9)内閣府規制改革推進会議(令和5年6月1日):規制改革推進に関する答申~転換期におけるイノベーション・成長の起点~

(10)内閣府政策統括官(令和5年1月):地域の経済 2022 ― 地方への新たな人の流れと地方のデジタル化の現状と課題―

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