RDDと希少・難治性疾患におけるオンライン診療の取り組み

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RDDをご存知でしょうか?RDDとは、Rare Disease Day(世界希少・難治性疾患の日)の略称で、希少・難治性疾患の患者さんの生活の質の向上を目指した世界最大の社会啓発イベントです。2008年にスウェーデンで始まった活動で、毎年2月末日には延べ103ヵ国で開催されています(1)

日本においても2010年にRDD Japanがスタートし 、初期は東京でのイベント開催が中心でしたが、徐々に全国で様々なイベントが開催されるようになってきています。毎年2月最終日が「世界希少・難治性疾患の日(Rare Disease Day)」と定義されており、2月はRDD月間として特に様々な活動が多く行われており、例えば2021年2月28日には東京タワーがRDDカラーにライトアップされるといったイベントもありました。

希少・難治性疾患とは?

世界の希少疾患患者数は約3億人と言われており、米国NIHでは確認されている希少疾患の数は9640と報告しています。希少疾患の多くは、一つ一つの疾患における患者数は1000人以下と少ないのですが、希少・難治性疾患患者総数となるとそれなりの患者数となり、疾患は違っても課題やチャレンジには共通点があると言われています。

日本における希少疾患・難病の患者の総数は厳密には不明ですが、指定難病における特定医療費受給者証の所持者は約90万人と言われています。ただし、この受給者証は一定の条件を満たした患者のみにしか支給されないため、軽症者や指定難病の条件を満たさない疾患患者は含まれていません。

また、「難病」という言葉の浸透期間(1960年代以降)と難病法制定時期(2014年)の違いから、一般市民がイメージする「難病患者」は行政用語である「指定難病」と乖離があり、希少疾患、難治性疾患、長期慢性疾患といったより広義の疾患を難病と捉えられることが少なくなく、難病に対する理解がなかなか進まない一因にもなっていると言われています。

RDDが目指す未来

希少・難治性疾患の課題は様々あります。第一に、診断確定までの平均期間は5~7年と言われており、診断が難しいことが挙げられます。これは、希少・難治性疾患の専門医が少なく、見過ごし、見落としが起こっているためと言われています。思春期の方は、診断までの過程で精神的なストレスを抱えてしまうことも少なくありません。さらに、診断確定されたとしても、治療法のある疾患は全体の5%未満と言われており、残りの疾患は対症療法でしか対応できないという現実があります。治療にかかる費用も高額となり、広範かつ生涯にわたる医療福祉のサポートが必要です。

また、患者数自体も小さく全国に散逸しており、患者団体の設立・運営にも困難を伴います。そのため、情報発信の少なさから患者団体の存在も知らないまま社会から孤立し困りごとを抱えこんでしまうなど、ネガティブなサイクルができやすいと言われています。

日本難病・疾病団体協議会(JPA)の故水谷事務局長は、希少・難治性疾患の患者や家族にとって、辛いこととして「治りづらいこと」と「生きづらいこと」を挙げました。両者の「つらさ」は患者・家族にとっては同程度の重みがあり、「治らないのは分かったから、どうにかして生きたい」と思いながらも、それが難しいと訴える患者が少なくありません。例えば、癌患者は、深刻な問題は多々あるものの、疾患や治療に関する情報、支援に関する情報が様々あり、具体的な解決策にリーチしやすいのですが、希少・難治性疾患の場合は、それができないこともしばしばあります。結果、データを通じた医師との信頼関係も芽生えない、社会生活の中でリストラ対象になりやすい、といった問題もみられています。

このような背景から、RDD Japanの事務局を運営するNPO法人ASridは、「希少・難治性疾患分野の10の『ない』「少ない」を公開し、これに対する解決策を模索しています。

図:ASridサイト資料より抜粋

特に、ステイクホルダー間の連携が重要で、母集団の小さなそれぞれの希少・難治性疾患では、それぞれのステイクホルダー単体では解決できないことが多々あると言われています。

オンライン診療は希少・難治性疾患の課題解決策となるか?

上でも述べたとおり、希少・難治性疾患は様々な場面で費用がかかります。診断がつくまでの期間の長さや、専門医が少ないために遠方に通院が必要など、費用だけでなく、時間、体力なども重要な要素となります。

これらを解決する一つの答えとして、オンライン診療があります。例えば、聖マリアンナ医科大学附属病院では、HTLV-1関連脊髄症(以下、HAM)の患者向けに、2019年8月からオンラインでの診療を開始(2)しており、患者の通院負担を減らしながら、専門医による医療が継続的に提供されています。また株式会社Mediiは、都市部と地方の医師をつなぐ「E-コンサル」というサービスを提供しており、IT技術を活用することで専門医偏在の解消をはかっています(3)。オンライン診療を含む新しい医療のあり方による「希少・難治性疾患分野の10の『ない』」の解消が期待されることから、RDDの分科会としてオンライン診療分科会が発足しており、今月の3月7日には「RDDオンライン診療」というイベントが開催されています。

また、希少・難病疾患は患者数の少なさや適切な医療へのアクセスの難しさから、中々創薬が進まないという課題がありますが、オンライン診療を活用した臨床研究や臨床試験(いわゆるDecentralized clinical trialの一種)はその解決策となるかもしれません。

一方で、希少・難治性疾患領域におけるオンライン診療の使用頻度は高くはありません。オンライン診療が対面の診療に比べてできることが限られていることもあるでしょうし、認知度がまだ高まっていないことや新しい医療のあり方に対する不安という背景もあります。患者への周知だけでなく、医療関係者や行政の理解も大切で、それぞれのステークホルダーの受け止め方を総合的に検討することが重要です。

最後に

今年は新型コロナウイルス感染症流行に伴い、RDD Japanの活動にも少なからず影響があったものの、オンラインだからこそできるイベントがたくさん実施され、大変盛り上がったと聞いています。MICINも2019年からRDD  Japanの協賛企業となっており、少しでも希少・難治性疾患の患者さんに寄与できる形はないか模索しつつ、RDD Japanの活動を応援しています。

参考資料

(1)RDD JAPAN:Rare Disease Day「2月最終日は世界希少・難治性疾患の日」

(2)株式会社MICIN:聖マリアンナ医科大学病院、難病の患者向けにオンライン診療を開始/「クロン」を利用、全国から専門医による遠隔医療を受けることが可能に

(3)株式会社Medii:専門医偏在問題を解消する『E-コンサル®』

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