前回の記事(1)では、2022年10月に開催された「規制改革推進会議第1回医療・介護・感染症対策ワーキング・グループ」で各業界団体が述べたSaMDに関する規制改革要望についてまとめました。
今回の記事では、2022年12月に公表された中間答申(2)、そして2023年6月に公表された最終答申(3)の相違点を比較しつつ、SaMDについて現在進んでいる検討や政府の対応についてみてみたいと思います。
SaMDに関する中間答申・最終答申の比較
中間答申及び最終答申のSaMDに関する項目のみ抜き出して比較表を以下に作成しました。
まず、中間答申・最終答申で変更のなかった項目が表1の4点になります。
また、中間答申から最終答申にかけて、修正が入ったのが表2の2項目です。SaMDの二段階承認の議論が進む中で保険上の評価に関する議論も連動して進める必要がありますが、業界団体の要望を具体的に制度に落とし込んでいく上でより現実的な案として答申が変更されたように思われます。
さらに、中間答申にはなかったものの最終答申で3項目が追加されています。特に注目すべきは、医療機器の製造販売業を取得・維持する上で必須人材となる国内品質業務運営責任者(品責)の資格要件を緩和すべきであるという項目が入ったことです。医療機器開発に参入する上での最初のハードルはいくつかあり、そのうちの一つが製造販売業の取得で、特にその中でも品責の資格要件を満たす人材を採用することの難しさは以前より指摘されていましたが、SaMD開発に参入するベンチャー企業が増加する中で、特にこの人材確保の難しさという問題が改めて表出したのかもしれません。
これらの最終答申を受けて策定された令和5年規制計画実施計画(4)が6月16日に閣議決定されています。
規制改革実施計画を受けてのこれから
前編でもご紹介した通り、業界団体側の要望は、大きく分けて薬事承認と保険上の評価に関する課題の2つに分けられますが、このうち、薬事承認に関する要望としてあがっていた段階的な承認制度(リバランス通知改訂もしくは条件付き早期承認制度)については、リバランス通知を改訂するという方向で2022年度12月より検討班(令和4年度「プログラム医療機器の特性を踏まえた薬事承認制度の運用改善検討事業」検討班)が立ち上がり、議論が開始され、2023年5月29日に検討班の報告書として、『プログラム医療機器の特性を踏まえた適切かつ迅速な承認及び開発のためのガイダンス』(5)が公表されています。このガイダンスについては、改めて別の記事でご紹介できればと思います。
保険に関する評価については、基礎となるそもそものSaMDの診療報酬上の評価のあり方に加え、継続的に改善改良が繰り返される性質をもつSaMDを保険上でどのように評価するのかといった観点での議論が必要として、2023年3月から中医協保健医療材料部会の下にSaMD WGが設立(6)され、議論が始まっています。このWGの議論は現在進行形で続いており、まだ結論が確定しているわけではありませんが、近々WGとしての見解がまとめられるのではないかと思われます。本件についても、改めて別の機会にご紹介します。
さらに、薬事制度・保険上の評価だけではなく、品責要件の検討や、広告規制関連の検討なども議論が進んでいくものと期待されます。
おわりに
筆者は、2019年より、SaMDに関する課題について記事に扱ってきましたが、薬事承認と保険上の評価という主な課題についてこの数年で大きく解決されつつあります。これは様々な意見の集約に尽力した業界団体とそれに全力で対応した行政による結果であり、これを受けて国内におけるSaMDの開発・社会実装が進むことを期待しています。
一方で、この新しい領域は技術革新や社会実装のスピードも早く、先行して精力的に新しい制度を試行してきた海外各国でも引き続き流動的に制度検討・変更を続けています。今後も新たな課題が出てくることは想像に難くありません。この面白くも魅力的な領域が、よりよい医療を提供するためにその価値を発揮できるよう、引き続き情報収集・発信していければと思います。
参考文献
(1)Digital Health Times:規制改革推進に関する答申から振り返るSaMDの議論の変遷(前編)
(2)内閣府規制改革推進会議:令和5年度 規制改革推進に関する中間答申
(3)内閣府規制改革推進会議:令和5年度 規制改革に関する最終答申
(4)内閣府規制改革推進会議:令和5年度 規制改革実施計画
(5)厚生労働省:プログラム医療機器の特性を踏まえた適切かつ迅速な承認及び開発のためのガイダンス
(6)厚生労働省:中央社会保険医療協議会(中央社会保険医療協議会保険医療材料等専門組織)