英国民間組織の取り組みから考えるデジタルヘルスの流通基盤

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近年、デジタルヘルス製品の開発は世界的に進んでおり、日本でも多くの製品が生み出されています。特に、スマートフォンをはじめとしたスマートデバイスで用いるデジタルヘルスアプリの開発が進んでいます。しかし、デジタルヘルスアプリは各国で医療機器として認可が必要なものも多く、その認可や流通面において各国で模索が続いているようです。

一方で、デジタルヘルスアプリを使用することに対する不安を医療者・患者側両方が持っていることも指摘(1)されています。このような背景から、各国ではデジタルヘルス製品の活用促進に向けて様々な取り組みが行われています。今回の記事では、英国におけるデジタルヘルスの取り組みを支援する民間組織であるORCHA(2)の取り組みを取り上げます。

ORCHAとは

 「ORCHA」(Organisation for the Review of Care and Health Apps)は、2015年に設立された英国の民間組織で、デジタルヘルスアプリの検証及び流通に関わるデジタルヘルス製品のプラットフォーマーです。ORCHAはいわゆる医療機器の第三者認証機関(Notified Bodies)ではありませんが、NHS(National Health Service)向けのアプリ検証しており、350以上のデジタルヘルス製品に求められる項目をテストし、医療従事者が適切なデジタルヘルスツールを患者に使える(処方できる)ようにヘルスケアアプリのreview(検証)及び流通を行っています。英国全土のうち、70%の地域のNHSが専用のORCHAアプリライブラリを使用し患者にデジタルヘルスアプリを提供しています。(3)

ORCHAの活動

ORCHAは、医療サービスが英国及び世界で安全かつ有効な医療を人々に確実に提供できるようにすることを目的としており、具体的には以下の6つの項目について活動しています。

  1. Health App Library:一般消費者向けデジタルヘルスアプリのオンラインライブラリを提供する
  2. Digital Health Formulary:医療従事者がデジタルヘルス製品を扱う上で患者やサービス利用者に品質が保証されたデジタルヘルス製品を提供するための一次情報を提供する
  3. Digital Health Education:最前線の医療従事者にデジタルヘルスに関する知識とスキルを提供する
  4. Digital health product assessment frameworks:デジタルヘルス製品に対して必要な評価基準を提供する
  5. Digital health assessment technology:ORCHAの基準に沿ったデジタルヘルス認定技術を提供する
  6. Digital health product  assessment subscriptions:デジタルヘルス 製品の品質保証と継続的にコンプライアンス保証をする

今回の記事では、1. Health App Library、2. Digital Health Formulary、3. Digital Health Educationについて取り上げます。

Health App Libraryについて

Health App Libraryは、一般消費者向けのデジタルヘルスアプリに関するライブラリです。ライブラリには、臨床的・専門的な保証、データプライバシー・利便性・アクセシビリティなどの基準をクリアしているかどうかが掲載されており、「そのデジタルヘルス 製品がきちんとしたものか?」というチェック機能を担っています。またORCHAが継続的に評価する製品については、上記の情報に関する一次情報を提供しています。このライブラリにより、市販のデジタルヘルスアプリを一般人が医療従事者の監督なしで安全にダウンロードして使用することが可能になりました。

2023年5月時点では、ORCHAのアプリライブラリを使用する製品はフィットネス関連が99製品、メンタルヘルス 関連が460製品、呼吸器領域関連が119製品、認知症関連が10製品、糖尿病関連が82製品となっています。ライブラリに掲載されている製品の一部をご紹介します。

Digital Health Formularyについて

Digital Health Formularyは、医療従事者がデジタルヘルス製品を扱う上で必要なトレーニングやトラッキングを行うとともに患者やサービス利用者に品質が保証されたデジタルヘルス製品を提供するための一次情報を提供するサービスです。

最近公表された「The UK’s first Digital Health Formulary」(4)では、医療従事者がデジタルヘルスアプリを患者に「処方」して患者がそのアプリの使用に対して医療者が監督することが可能となりました。また、CERNER や EPIC ダッシュボードなどの既存の患者記録システム(英国で一般的に使用されているシステム)に統合し、医療従事者が診療の事前に患者情報を閲覧でき、適切なヘルスアプリを患者に提供(処方)することが可能になりました。

これにより、医療従事者はより高機能なアプリを患者に安全に処方することができます。デジタルヘルスアプリの推奨事項は電子メール等で患者に送信されます。医療者はそれらを俯瞰的に確認し、処方されているアプリの数とそれらが患者によってダウンロードされて使用されているかどうかを監督できます。

Digital Health Educationについて

Digital Health Educationは、2023年3月よりNHSと提携してDigital Health Academyという取り組みを行っており、最前線の医療従事者にデジタルヘルス に関する知識とスキルを提供しています。(5)

具体的には、忙しい医療者のためにNHSや臨床医らとともに研修ビデオを作成して、CPD(Continuing Professional Development)認証のオンラインコースを提供しています。デジタルヘルスの状況に対する認識を高めるための無料基盤モジュール(オンラインコースの動画プログラム)は、現在のデジタルヘルスの状況に関する基礎モジュールとデジタルヘルス処方箋に関するモジュールで構成されており、両モジュールを完了することでCPD証明書を取得することができます。また、臨床医が提供する臨床コースもあり、このコースでは、糖尿病や筋骨格系障害などに関するデジタルヘルス製品のエビデンスベースやケーススタディを学ぶことができます。

このように、英国では医療者・一般人の双方にデジタルヘルス製品を普及させるために民間組織であるORCHAが重要な役割を担っています。

英国以外での活動

また、英国に限らず、米国においても活動を展開しており、米国内科学会(The American College of Physicians)、米国遠隔医療学会 (ATA : American Telemedicine Association)  と提携し、米国市場の特定のニーズを満たすレビュープロセスと基準とするDigital Health Assessment Frameworkの提供を開始しています。(6)

アメリカ人の19%がヘルスケアアプリをダウンロードまたは使用していると言われる昨今、10人に8人以上がヘルスケアアプリは役立つと評価しているものの、最適な健康アプリの選択は、医療サービスプロバイダーや患者にとって難題であり、ORCHAは、現在米国で利用可能な4,000を超える健康アプリをその基準に照らして評価し、品質基準値を満たしているものが僅か15%に過ぎない実態を指摘しています。

現在、ORCHAは英国・米国のみならず、欧州を中心とした11ヵ国の政府と連携し、デジタルヘルス製品の評価に関するフレームワークや認定プログラムの提供を行っており、活用促進を促す大きな役割を果たしていると言えるでしょう。(7)

まとめ

英国では、デジタルヘルスを実臨床に定着させるべく、先日ご紹介したEVAの試行(8)などが行政の取り組みとして行われていますが、行政単独の取り組みだけではなく、民間と行政が協力して様々な取り組みが行われているという点も注目に値します。デジタル製品を問題なく活用できるだけのリテラシーが医療者・患者双方で十分に醸成されていない中、いかに生活の中で負担なく使えるように情報提供していくか、トレーニングしていくかを行政と民間が協力しながら国民に提供しているというのは、英国の国としてデジタルヘルスを普及させていこうという「本気度」が伺えます。

また、デジタルヘルス製品の品質を評価する機関が流通基盤も担っているという点は無駄がなく、合理的な仕組みのようにも思えます。英語圏だからこそ、国境を超えた展開が可能であるという点も強みかもしれません。

日本でも、様々なデジタルヘルス製品の開発が進んでいますが、医療者・患者双方の認知や期待はまだ十分には醸成されておらず、デジタルヘルス製品をどのように実臨床で活用してもらうかといった取り組みが十分に行われているわけではありません。現時点では、個社が個社の取り組みとして「頑張っている」というのが実情でしょう。しかしながら、それでは普及のスピードとしてはどうしても限界があります。今後製品が増えてくることを見据えて、どのような体制で製品や製品の情報を国民に提供していくのかについては検討する必要が出てくるかもしれません。また、その上で、共通する流通基盤をどのように構築していくのかといった問題はこれからの課題の一つともいえるでしょう。

英国のORCHAの取り組みは、これからの日本が取り組むべき課題解決方法の一つの参考になるかもしれません。

参考文献

(1)アクセンチュア社:日本におけるデジタルヘルス活用の現状と課題

(2)ORCHA

(3)英国デジタルヘルス産業 「First 100」日本語版ディレクトリー

(4)digitalhealth :ORCHA creates UK’s first Digital Health Formulary

(5)ORCHA:UK’s first digital health training programme for all NHS frontline staff

(6)Healthcare IT News:ACP, ATA, ORCHA announce new framework supporting health app safety

(7)ORCHA:Digital Health Assessment technology for national health bodies

(8)Digital Health Times:2022年に始まった英国のデジタルヘルス政策「EVA」について

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