規制改革推進会議で取り上げられた医療機器プログラム(SaMD)の開発促進における課題-後編-

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2020年10月19日に開催された内閣府規制改革推進会議 第1回 医療・介護ワーキング・グループにおいて、弊社から説明したSaMD開発促進における課題の後半は、規制当局の承認体制及び承認プロセスに関するものになります。

PMDAのSaMD審査体制が抱える課題

医薬品医療機器総合機構(PMDA)は2004年に設立された厚生労働省所管の独立行政法人で、①医薬品・医療機器・再生医療等製品の市販前審査関連業務、②市販後の安全管理対策業務、③副作用発生時の健康被害救済業務の3つを大きなミッションとしており、国際的にも米国FDA、欧州EMAと並ぶ薬事規制当局の三極としての責務を担っています(1)

かつてはドラッグ・ラグやデバイス・ラグといった問題について、海外からの遅れを批判されてきましたが、PMDA及び関連業界の並ならぬ努力により、これらは大きく改善され、今や医薬品においてはFDAと遜色ないスピードでの承認審査がなされ、また医療機器においても日本で先駆けて承認される製品もあると言われています。

しかしながら、PMDAはFDAと比較し、規模がコンパクトであるということは以前から指摘されています。FDAとPMDAでは所掌する職務が全く同じというわけではないため、単純に比較することはできませんが、2013年当時のPMDA第三期中期計画(2)においても目標とされた人員数は海外規制当局の職員数と大きな隔たりがあり、限られたリソースで業務対応しているのがわかります。

組織全体の職員数でも相違がありますが、医療機器部門に限っても同様に規模の差が見られます。こちらも同様に、所掌の職務が異なるため、単純な比較はできませんが、部門構成、スタッフ数などに相違が見られます。この違いがある中でも、PMDAはFDAと同水準、同スピードの承認審査対応を目標とし、デバイス・ラグ解消のために尽力されており、この数年、デバイス・ラグの一部である審査ラグについてはすでに解消されています(3)

図1 PMDAとFDAの医療機器部門における組織体制の比較(株式会社MICIN作成)

しかしながら、2010年頃から開発が活発になってきたデジタルヘルスの分野、特にSaMDにおいては残念ながら承認数で国内外差が広がりつつあり、SaMDラグといえる状況に陥りつつあると言えます。

ラグが生じつつある理由は様々あり、そもそも日米で開発企業数の相違を前提とした開発環境の違いもあるでしょうし、前編(4)でも述べた通り、開発者側が規制の仕組を理解して開発を進められておらず、効率的な規制対応ができていない問題もあります。一方で、従来のハードウェア型医療機器とソフトウェアでは特性の違いがあり、ハードウェア型医療機器とともに発展してきた薬事規制のあり方の中で、規制を突破するという意味ではソフトウェアの特性が逆に足かせとなってしまっているとも言えます。

表1 従来の医薬品・医療機器とSaMDがもつ特性の違い(株式会社MICIN作成)

しかしながら、デジタルヘルスの開発を促進していく上では、産業を活性化させるのと同時に、規制側も技術推進に応じて柔軟にアップデートするという両輪の動きが必要になります。

海外に目を向けてみると、FDAでは、デジタルヘルス産業を規制側も支援すべく、Digital Health Center of Exellenceという統括部署を立ちあげ、一括した体制を整えはじめました(5)。その中で、規制側にもデジタルヘルスの知見を有するスタッフが必要であるとし、関連する領域の専門家(ソフトウェアエンジニア、機械学習エンジニア、サイバーセキュリティ、UI/UXデザイナーなど)の採用を強化するなど、積極的な動きが見られます。

図2 FDAはDHCoEを立ち上げた(株式会社MICIN作成)

一方で、PMDAの審査体制を見てみると、「AI・ソフトウェア(サイバーセキュリティ含む)チーム」が平成31年1月に横断チームとして立ち上がっています(6)が、あくまでも横断チームであり、規模やその権限についてはDHCoEほどのパワーがあるわけではなさそうです。デジタルヘルス後進国とならないためには、規制側の体制をさらに強化していく必要もあるのではないでしょうか。

また、コロナの影響で規制当局側もオンライン化を余儀なくされている部分がありますが、業務効率化という観点からデジタル化できる部分をさらに進めることで審査員の業務負担を減らし、審査業務や開発支援業務にリソースを集中させることも一つの解決策かもしれません。

表2 SaMD開発支援・審査に関するPMDAの体制の課題と解決策案(株式会社MICIN作成)

デジタルヘルスの特性に即した承認プロセスの検討はできないか?

医療におけるデジタル技術の活用については、スムーズに社会実装されるよう各国で様々な実証がなされています。例えば、米国では、2013年にMobile Medical Applications(7)というガイダンスが策定され、その後2017年にDigital Health Innovation Action Plan(8)が公表され、医療機器の認証制度の変更計画の中で、これまで規制の対象外だったヘルスケア関連プログラムを、認証対象として組み込む方針が示されました。さらに同年、開発プロセスに着目したDigital Health Software Precertification (Pre-Cert) Program(9)を公表し、個別の製品ではなく、開発企業自身を承認するプロセスが実証されることになりました。Apple社、Samsung Electronics社を始めとした9社が選定され、2019年以降、本格的にアップデートしながら実証が続けられています。個別製品の管理プロセスが問われるハードウェア型医療機器と異なり、開発プロセスそのものが製品でもあるSaMDにおいては、この考え方は合理的であるとも言えます。

図3 FDA Precertification Program(株式会社MICIN作成)

欧州の医療先進国といわれるドイツにおいても、デジタルヘルスの社会実装を加速させるべく、2019年にデジタルヘルスケア法(DVG)を制定し、医療アプリを中心としたデジタルヘルス製品をより迅速に社会実装しようと実験的な試みが行われています。従来の医療機器においては、市販前に安全性及び有効性を評価した上で上市されるのが通常のフローですが、デジタルヘルス製品は、人体に直接侵襲を与えるという意味においてのリスクがないという点や開発のサイクルが早く、市販前評価を行っていてはそのサイクルを止めてしまうといった問題から、このような挑戦的な取り組みを採用しているものと推察されます。

図4 ドイツにおけるデジタルヘルスケア法の概要(日本総研作成資料より引用)

日本においては、2019年9月に薬機法が改正され、その中でIDATEN(Improvement Design within Approval for Timely Evaluation and Notice)という承認制度が開始されました(10)。これはAIを活用した医療機器に親和性の高い制度ですが、まだ開始されたばかりの制度で詳細が公表されていないこと、また現状で公開されている情報でみる限りではかなり限定的な条件になろうと推測されることから、SaMDの開発促進にどこまで寄与するかは不透明です。

ドイツのデジタルヘルスケア法と似たような制度として、国内にも「革新的医療機器条件付早期承認制度」(11)という制度があります。しかしながらこの制度は「患者数が少なく治験症例の組入れに相当な時間を要する等の理由により臨床開発が長期化する」医療機器を対象としており、厳格な条件が付されています。デジタル治療や診療業務の効率化を特性とするSaMDを含めたデジタルヘルス製品はこの条件には当てはまりません。

一方でデジタルヘルス製品は、技術のコモディティ化が早く、必要とされるアップデートの頻度や種類も多いことから、性能をロックした製品を市販前に時間をかけて評価するという制度は製品の特性を活かしきれないどころか殺してしまいかねないという懸念もあります。デジタルヘルス製品の開発促進のためには、その特性を活かした承認プロセスを検討する時期に来ているのではないでしょうか。

また、アップデート頻度・パターンが従来のハードウェア型医療機器に比べて明らかに多いと考えられるSaMDは、従来の一部変更承認申請・軽微変更届といった変更手続き制度も開発促進の枷となっていると言えます。従来の変更手続きはハードウェア型医療機器に併せて検討されてきたものであり、規制の手続きが大変だから変更しない、といった逆転現象が起きてしまいかねない(実際生じているということが医療現場からも聞こえてくる)状況は望ましくなく、SaMDの特性に合わせたアップデート関連に関する制度についても併せて検討が必要です。

課題は他にもあり、特に保険償還関連については改めての議論が望まれる

今回の規制改革推進会議において、弊社からは該当性にまつわる課題と承認体制・プロセスに関する課題について説明しました。一方で、前編(4)でも触れた通り、SaMDの社会実装を段階ごとに見た時、それぞれの段階でハードルとなる課題があり、規制側に課題がある部分については個別の議論が望まれます。特に、薬事承認後の保険償還を含めたSaMDのマネタイズ戦略に関わる課題については、改めて議論の必要があると規制改革推進会議でも判断されていると聞いています。

従来の医療機器と異なる特性を持つSaMDを含めたデジタルヘルス製品は、従来のFee-for Serviceという考え方に基づいた保険償還システムではなく、Value-based Careという患者視点での価値評価の方がマッチするかもしれません。また、場合によっては保険外併用療養の活用に関する模索も必要かもしれません。公益財団法人医療機器センターからも、今年の9月に「デジタルヘルスの進歩を見据えた医療技術の保険償還のあり方に関する研究会 (略称:AI・デジタルヘルス研究会) からの提言」(12)というペーパーが公開されており、議論の機運が高まってきていると言えます。

最後に

今回、まだ発展途上にあるスタートアップ企業という立場にも関わらず、規制改革推進会議で意見を述べる貴重な機会をいただきました。SaMDを含めたデジタルヘルス製品は、既存のヘルスケア業界のステークホルダーだけでなく、弊社のような新規参入者も数多く、その数だけ課題があるとも言えます。

河野太郎大臣が「(SaMDは)日本発で世界市場に出ていくということが本来あるべきだ」と発言されたという報道(13)を拝見しましたが、日本がデジタルヘルス後進国とならないように、また世界をリードする産業の一翼を担えるように、開発側もより一層の努力を続けるとともに、より適正な規制のあり方を規制改革推進会議及び当局の皆様にご検討いただけましたら幸いです。

※本規制改革推進会議の議事録は近日内閣府より公開されます。資料はこちら(14)からご確認いただけます。

参考資料

(1)医薬品医療機器総合機構:PMDAとは

(2)医薬品医療機器総合機構:目標・計画並びに業務実績の評価結果に関する情報

(3)医薬品医療機器総合機構:デバイス・ラグの試算について

(4)Digital Health Times:規制改革推進会議で取り上げられたSaMD開発促進における課題-前編-

(5)FDA:Digital Health Center of Excellence

(6)医薬品医療機器総合機構:プレスリリース「組織改正について」

(7)FDA:Policy for Device Software Functions and Mobile Medical Applications

(8)FDA:Digital Health Innovation Action Plan

(9)FDA:Digital Health Software Precertification (Pre-Cert) Program

(10)医薬品医療機器総合機構:https://www.pmda.go.jp/review-services/pub-comments/0079.html

(11)医薬品医療機器総合機構:革新的医療機器条件付早期承認制度へ対応

(12)公益財団法人医療機器センター:デジタルヘルスの進歩を見据えた 医療技術の保険償還のあり方に関する研究会 (略称:AI・デジタルヘルス研究会) からの提言

(13)日刊薬業:プログラム医療機器、「日本発で世界市場に」 河野行革相

(14)株式会社MICIN:プレスリリース「弊社・桐山が内閣府主催「規制改革推進会議 医療介護ワーキング・グループ」にて医療機器プログラムの開発促進についての提言をしました」

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