規制改革推進会議で取り上げられた医療機器プログラム(SaMD)の開発促進における課題-前編-

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2020年10月19日、内閣府規制改革推進会議においてSaMD(医療機器プログラム、Software as a Medical Deviceの略)がテーマとして取り上げられ、河野太郎規制改革担当大臣のもと、民間からの提言に基づき議論が行われました。民間からの説明者として弊社も参加しましたので、どのような提言がなされたのかについて、本記事でご紹介します。

規制改革推進会議とは?

「規制改革推進会議」(1)とは、内閣府設置法に基づき設置された審議会で、内閣総理大臣の諮問に応じ、経済社会の構造改革を進める上で必要な規制の在り方の改革に関する基本的事項を総合的に調査・審議することが主要な任務とされています。

内閣府には「規制改革・行政改革ホットライン」という窓口が設けられており、規制改革や行政改革に関して国民から広く提案を受け付けています。これらの提案について、内閣府に設置された規制改革推進室が解決すべき課題を選定し、規制改革推進会議で議論をします。早期に改革を実現すべき課題については、関係府省庁に対して早期に改革を促していくことも規制改革推進会議の役割としています。

規制改革推進会議はいくつかのワーキング・グループに分かれており、医療に関するトピックは「医療・介護ワーキング・グループ」の中で議論されます。これまでに、社会保険診療報酬支払基金に関する見直しやオンライン医療の普及促進、健診情報の入手の容易化、患者申出療養制度の普及に向けた対応など医療・介護分野における課題について多岐にわたり議論がされています。

規制改革推進会議でSaMDがテーマとなった理由

コロナ禍で、様々な業種においてDX化の推進が求められており、医療・介護もその例外ではありません。本年度の規制改革推進会議では医療のDX化やデジタルヘルスの促進という観点で、何が規制上の課題となっているのかということを中心に様々なトピックを取り上げて議論がなされることになったと聞いています。

2010年頃からビッグデータという言葉が様々な領域で頻繁にかわされるようになり、AIの開発及び社会実装が活発になったのと同時に、医療におけるビッグデータの活用、そしてそれに伴いAIを含めたデジタルヘルス領域の開発が盛んになりました。この動きに乗ったのは、ヘルスケア産業における従来のステークホルダーである製薬企業や医療機器メーカーだけではなく、IT企業を始めとした他業種のプレイヤーもまた、ヘルスケアの領域に参入しようとする動きが活発になりました。

一方で、2014年に薬事法から薬機法に改正され、SaMDという新たな医療機器のカテゴリが生まれました。医療機器であるSaMDは薬事規制の枠組の中にあり、様々な制約が課されます。例えば、表1のように製造販売するための業許可、医療機器としての認可、販売後の安全管理体制など、厳密な規制の中での要件が求められ、開発者にとっては開発する製品が医療機器に該当するかしないかは大きな分岐点となります。

表1 医療機器該当/非該当製品の開発者に求められる要求事項の比較(株式会社MICIN作成)

このような中、それでも規制に則ってSaMDを開発したいと考える企業と、規制対象とはならない範囲のヘルスケアプログラム(以下、non SaMDという。)を開発したいと考える企業、そもそも薬機法の存在を知らずにプログラムを開発し社会実装してしまう企業…といった形でヘルスケアITの領域は混沌としました。

なぜこのようなことが起こってしまったかについては様々な理由があるかと考えられますが、ひとつにはプログラムは比較的容易に開発に参入できてしまうこと、ゆえに薬機法の存在を知らない/十分に理解していないプレイヤーが一気にヘルスケア領域に参入したことにあります。SaMD/non SaMDを展開する上では、下記の図1のように複合的な知見、技術、体制が必要であり、これらを兼ね備えたプレイヤーは限られますが、その認識が十分に浸透されないままヘルスケアITに対する期待が一気に高まり、混乱を生むこととなりました。

図1 SaMD開発に関与する企業とそれらの企業が有する知見や体制(株式会社MICIN作成)

規制当局である厚生労働省でも、法改正に伴い医療機器開発に不慣れなプレイヤーが参入することを踏まえ、関連する情報提供を何度も行っていますが、今なおこの混乱は見られます。この混乱は、規制のあり方が従来のハードウェア型医療機器をベースに形成されてきたものであり、ITの領域における開発プロセスやスピード感とミスマッチを起こしているという背景もあるでしょう。

SaMDはまさに医療のデジタル化におけるメイントピックの一つであり、また開発を促進するうえで課題のある領域であるとして、第一回のテーマとして取り上げられたのではないかと推察されます。

SaMDの社会実装までのフェーズを①企画段階、②開発中、③承認審査、④承認後にわけてみると、それぞれのフェーズで図2のように様々なハードルがあることが見えてきます。規制改革推進会議当日は、10分という限られた説明時間であることから、弊社からは、企画段階及び薬事承認のフェーズに関する課題を中心に説明することになりました。

図2 SaMD社会実装のフローとフェーズごとの課題(株式会社MICIN作成)

SaMD開発における第一の課題は医療機器該当性判断

以前Apple Watch ECG appの記事(2)でもご説明したとおり、SaMDの該当性判断はややこしいです。その理由は主に2つあり、1つには、判断の評価軸が「リスクの蓋然性」と「臨床への寄与度」という相対的・主観的指標となっていること、そして2つめがクラスI製品を規制対象から外していることです(3)。この2つの点が、従来の医療機器以上にSaMDの医療機器該当性をブレやすくさせています。

図3 SaMDの該当性判断に関する基本的考え方(通知の内容をもとに株式会社MICIN作成)

このような背景から、SaMDを開発したい企業は「どこまで謳えば医療機器に該当する製品にできるの?」という悩みを、non SaMDを開発したい企業は「どこまで謳わなければ医療機器に該当しない製品といえるの?」という悩みを抱えることになります。開発の入り口の段階でまごついてしまうのですから、開発がそこで停滞してしまうのは致し方ないことともいえます。

この課題については、該当性の基準を見直すことが根本的な解決策として考えられますが、一方ですでにある基準の見直しというのはこれまでの製品にも影響するものであり容易ではないかもしれません。基準の見直しが難しい場合は、より細やかな該当性判断の明確化や事例集の公開、既存製品のデータベース構築などが解決策案として考えられ、同じく説明者として会議に参加した日本経済団体連合会(経団連)からの提言にも同様の内容が含まれています。(4)

図3 経団連からの提言(一部)

該当性判断の窓口が分散されていることによる生まれる問題

上記の通り「ややこしい」医療機器該当性判断ですが、判断の管轄責任部署は厚生労働省医薬食品局の監視指導麻薬対策課であり、実務を都道府県の保健局薬務課が担います。責任部署と窓口が分散されているということは、どのような業種・業態でもある形であり、それ自体は珍しいことではありません。一方で、プログラムの医療機器該当性については、上述のとおり判断基準が相対的で属人的になりうる指標であるという問題があり、窓口が分散されていることにより、窓口ごとに判断がばらけてしまうという問題をはらんでいます。

実際に、2014年の法改正直後、都道府県では該当性判断が難しい案件が続出し、開発者が振り回されるというケースが生じていたと言われています。都道府県で判断が難しい場合は、都道府県から厚労省に判断を確認するという形がとられていましたが、その「判断が難しい場合」も各都道府県の判断に委ねられていることを考えると一律であるとは考えづらく、厚労省が把握できていない案件も存在する可能性もあります。さらに悪い見方をすれば、医療機器認可の制度と異なり、医療機器該当性については当局に確認を取っても、その結果が公式文書として残るわけではなく、開発者が「該当性判断を都道府県で行いました」と言ってもその公的証拠がないというシステム上の欠陥もあります。

図4 該当性判断窓口部署は都道府県ごとに分散(株式会社MICIN作成)

プログラムの該当性に関する厄介な点はこれにとどまらず、開発初期のコンセプトが開発の過程の中で変遷していくことも多く、該当性もまたその過程の中で変わりえるということです。そのため、開発支援に関わるPMDAもプロダクトのコンセプトと該当性については随時確認・連携できるような体制が本来であれば望ましいとも考えられます。

該当性判断に限らず、SaMD開発において重要となる該当性判断、開発支援・審査、保険償還という各フェーズで規制当局側の窓口が分かれており、各部署で情報の連携がどの程度取られているのかは外からは分かりづらく、縦割り行政の中、開発者は複数の窓口に同時並行もしくは順番に相談しながら、各窓口で指導や指摘を受けて開発を進めており、開発における負担の一つともなっています。

図5 医療機器開発に関連する窓口は複数にまたがる(株式会社MICIN作成)

まとめ

本記事では、規制改革推進会議で弊社が述べたSaMD開発促進における課題の中でも、入り口部分にあたる該当性に関する課題について述べました。弊社からは、これらの課題に対して、以下の提言を行っています。

表2 該当性に関する課題と解決策案(株式会社MICIN作成)

次回の記事では、承認審査のフェーズにおけるSaMD開発の課題を記事にまとめます。(後編に続く)

参考資料

(1)内閣府:「規制改革推進会議」について

(2)Digital Health Times:Apple Watch ECG appの国内承認から見る「医療機器プログラム」

(3)厚生労働省:プログラムの医療機器への該当性に関する基本的な考え方について」 の一部改正について

(4)内閣府:規制改革推進会議第1回 医療・介護ワーキング・グループ  議事次第資料2-2 日本経済団体連合会 提出資料

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