COVID-19で加速した中国のオンライン診療

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多くの企業がサービスを提供していることから、中国は米国と並ぶオンライン診療の先進国と言われてきました。世界でもいち早く新型コロナウイルス感染症(以下、COVID-19)の感染が拡大し、多くの死者を出した中国はこの非常事態においてどのようにオンライン診療を活用してきたのでしょうか。今回は中国におけるオンライン診療の現場についてお伝えしたいと思います。

1000社以上がサービス提供

 英紙The Economistによると、中国ではオンライン診療サービスを提供する企業の数は1000社近くに登っています*1。保険大手の中国平安保険の子会社が運営する「平安グッドドクター」に加え、アリババ集団や騰訊控股(テンセント)、百度(バイドゥ)など、中国を代表するIT企業のグループ会社がプロバイダーとしてオンライン診療の成長を牽引してきました。国土が広く十分な医療を受けられない地域も少なくない中国ではオンライン診療に対する期待が大きく、政府も2019年に処方薬の販売を解禁するなど、普及を後押ししてきました*1。

 オンライン診療の普及にむけた土壌が整いつつあった中国では、2020年に入りCOVID-19が一気に広がりました。患者の急増に医療体制の整備が追いつかず、医療崩壊が叫ばれる中、オンライン診療のプロバイダー各社は早急に手を打ちます。

DtoDでの利用も広がる

 米タイム誌によると、百度傘下のBaidu Healthは10万人の医師が24時間体制でオンラインで相談を受けられる体制を敷いてきましたが、COVID-19の流行を受けてこのサービスを解放しました。こうした施策により、Baidu Healthの利用回数は2020年4月26日までに5450万件(中国以外からの40万件を含む)に達しています。同様に、ネット通販大手の京東集団(JDドットコム)傘下のJD HealthもCOVID-19の流行前に1日1万件だった利用回数は15倍に急増しました*2。

 こうしたCOVID-19の感染拡大をきっかけとした中国におけるオンラインシステムの活用は、医師と患者の間に止まりません。

 中国の通信機器最大手、華為技術(ファーウェイ)はわずか4日で108の郡、18の都市にある147の病院を結ぶ通信網を整備しました。この通信網を利用し、2020年3月20日までに2000人の患者が診断を受けました。さらに、このシステムをDtoD(医師-医師間)で利用することで、遠く離れた小規模の病院と大病院の間でCOVID-19に対するガイダンスが共有されています*3。

流行地武漢を支援したオンライン診療

 大流行地となった武漢では、不安にかられた患者が病院に殺到し供給体制が追いつかなくなったことにより、医療現場に大きな混乱が生じ、死亡者増加の原因になったと言われています。中国政府は、この状況に対して、武漢内の医療機関の負担を軽減するために、中国医師協会にオンライン診療による後方支援を求めました。中国医師協会は、医師1,000規模の名専門チームを編成し、これにアカデミアの清華大学や、民間から華為(Huawei)、聯通(China Unicom)などが参画することで、武漢外から武漢市内のCOVID-19専門病院を支援しました。武漢市の医療現場の混乱緩和には、現場の医療関係者の奮闘のみならず、その後方で全国の医師や、業界を跨いだ連携が寄与したと言われています。*4

 COVID-19の流行を受けたこうした企業の取り組みは無償のものも多く、平時に有償になればどの程度利用が続くかは定かではありません。ただ、国土が大きく、従来の医療体制における問題点が多い中国で、それを補う形でオンライン診療が活用され、患者にもその有益性が伝わったということの意義は大きいはずです。今後、中国でどのようにオンライン診療が使われていくのか、その動向に注目していきたいと考えています。 

*1 https://www.economist.com/business/2020/03/05/millions-of-chinese-cooped-up-and-anxious-turn-to-online-doctors

*2 https://time.com/5832584/coronavirus-covid19-telehealth-online-healthcare/

*3 https://www.huawei.com/minisite/tech4all/en/Nationaltelemedicinecenter.html

*4  https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=64031?pno=2&site=nli

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