オンライン診療先進国、米国の現状

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オンライン診療シリーズ③ 

 いまや、新型コロナウイルス感染症(以下、COVID-19)の患者数、死者数ともに世界最多となった米国。オンライン診療の先進国と言われる米国は、この難局にどう立ち向かおうとしているのでしょうか。今回は米国におけるオンライン診療を取り巻く環境は足元でどう変わっているのか、その現状について簡単に紹介したいと思います。

COVID-19流行前は普及率20%程度

 米国ではオンライン診療サービスを提供する企業も多く、オンライン診療先進国の1つと言われてきました。とはいえ、COVID-19流行前の状況をみてみると、爆発的に普及が進んでいたというわけではありません。

 ボストンに拠点を置くオンライン診療サービスのAmerican Wellが発表した調査結果(*1)によると、2019年時点でオンラインで診察したことがあると答えた医師の割合は22%でした。2015年時点の5%と比べると大幅に上昇しているものの、オンライン診療が一般の患者に広く普及していると言える状況にはありませんでした。

 この調査ではオンライン診療を使うための障壁として「どの程度保険償還されるかわからないこと」を挙げた医師の割合が77%と最も大きく、「オンライン診療で対面と同様の質を担保できるか不安」という答えも72%と多くなっていました。

 日本と比べると普及率は高いものの、本格的な普及に向けて取り組むべき課題は多い、というのが実情だったのです。

矢継ぎ早に打ち出された施策

 しかしながらこの状況はCOVID-19の感染拡大で一変してしまいます。米国での感染者数が100人を超えた3月初旬、COVID-19の対策費として83億ドルを計上した2020会計年度の追加予算が成立しました。このうち、5億ドルがCOVID-19の感染リスクが高いとされる高齢者向けにオンライン診療サービスを提供するための費用に当てられたのです。

 さらに、トランプ政権は3月中旬に65歳以上の高齢者を対象とした公的保険のMedicare の加入者がオンライン診療を利用できるよう、期間限定で大幅に規制を緩和しました(*2)。この緩和により、全ての地域の患者は自宅からオンラインで受診できるようになりました。この措置はCOVID-19以外の疾患を抱えた高齢者が院内感染するリスクを低減することを目的としています。

 また、米保健福祉省(HHS)が規則を一部緩和したことで、医師がオンラインで患者を診察する際に、FacebookのメッセンジャーやAppleのFace Timeなどの通信手段を用いることが可能となりました(*3)。これまでHHSはHIPAA法(Health Insurance Portability and Accountability Act of 1996;医療保険の携行性と責任に関する法律)の中でオンライン診療における汎用システムの活用を制限していましたので、大きな緩和と言えます。

オンライン診療の普及は加速

 こうした制度上の後押しを受ける形で民間企業も対応を加速しています。コネチカット州にあるAetnaが2020年6月4日までの期間、無料でオンライン診療を受けられるサポートを打ち出す(*4)など、複数の民間の保険会社が加入者に対してオンライン診療サービスの提供を強化しています。

 こうした背景から、足下ではオンライン診療の利用は急速に増加しています。米オンライン診療大手のTeladoc Healthが2020年4月29日に発表した2020年1~3月期決算によると、米国におけるオンライン診療の利用回数は前年同期に比べて2倍強の161万回に増えました(*5)。Teladocはさらに、2020年を通した全世界での利用回数についても800万~900万回と前年比2倍まで増加するという予想を示しています。

 一方で、急速な普及により医療現場でオンライン診療に対応する医療スタッフにも影響が出ています。対面診療とオンライン診療は別物であり、対面診療に慣れている多くの医療スタッフには、オンライン診療にあわせた診療やシステム活用ができるように各地で研修などが設けられているようです。

 もう一つの観点として、COVID-19による医療現場への影響として、プライマリ・ケアクリニックを受診する患者が激減したことで、プライマリ・ケアを担う医療機関の経営状況が急激に悪化しており、医師すら解雇されるという状況が出てきているという社会的問題もでてきています(*6)。プライマリ・ケアを担う医療機関がオンライン診療を活用することで、本来医療介入が必要な慢性疾患の患者の対応などを担い、COVID-19の重症患者対応を担う基幹病院の負担を減らすということは、双方においてメリットがあることなのかもしれません。

 日本と同様、米国でのこうした一連の規制緩和についてはあくまでもCOVID-19の感染拡大を阻止するための時限的な措置ですが、COVID-19が収束した後に従来のルールがどの程度残るかはまだ未知数です。ただ、一時的とは言え、これほど利用回数が増えたことから見ても、COVID-19流行拡大は米国におけるオンライン診療サービスにとっても大きな変換点となるのかもしれません。

*1 https://static.americanwell.com/app/uploads/2019/04/American-Well-Telehealth-Index-2019-Physician-Survey.pdf

*2  https://www.cms.gov/newsroom/press-releases/president-trump-expands-telehealth-benefits-medicare-beneficiaries-during-covid-19-outbreak

*3  https://www.hhs.gov/hipaa/for-professionals/special-topics/emergency-preparedness/notification-enforcement-discretion-telehealth/index.html 

*4  https://www.aetna.com/individuals-families/member-rights-resources/covid19/telemedicine.html

*5 https://ir.teladochealth.com/news-and-events/investor-news/press-release-details/2020/Teladoc-Health-Reports-First-Quarter-2020-Results/default.aspx

*6 https://www.usatoday.com/story/news/health/2020/04/02/coronavirus-pandemic-jobs-us-health-care-workers-furloughed-laid-off/5102320002/

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