新型コロナウイルス感染症(以下、「COVID-19」と記す。)の流行をきっかけに、オンライン診療が日本でも注目を集めています。COVID-19以外の疾患を抱えた人が病院に行くと、院内感染のリスクが高まります。そうした事態を避けるための1つの手段として、オンライン診療を活用する動きが広まってきました。当コラムではオンライン診療がこれまで我が国でどのように制度化され、普及してきたのかを振り返りたいと思います。
2015年、オンライン診療は実質解禁へ
オンライン診療とは情報機器を用いた診療を指し、日本で実質的に解禁されたのは2015年のことです。それ以前は医療体制が十分ではない離島僻地などに限って、電話や通信機器を用いて診療することは認められていましたが、この年、厚生労働省から「通信機器を用いた診療を実施できる地域は離島僻地に限らない」という内容の事務連絡が出されました。これにより、全国でオンライン診療を実施することが可能となり、この時期にオンライン診療を手がけるスタートアップが複数誕生し、予約や問診、診察、決済などを一気通貫で済ませられるサービスが提供されるようになりました。
日本におけるオンライン診療において、次に大きな転機となったのは2018年です。この年、保険診療において「外来」「入院」「在宅」と並ぶ4つ目の柱として「オンライン診療料」が新設されました。それまでオンラインで診療をする際は、患者が診察後に治療内容を問い合わせした際などに算定する「電話等再診料」を適応していました。この2018年の診療報酬改定でオンライン診療が新たな診療形態として確立されたと言えます。
この年には同時にオンライン診療に関するガイドラインも出されました。こちらのガイドラインは保険診療だけでなく、自由診療でも遵守が求められるルールで、「初診は対面で行う」「ビデオ通話を必須とする」などの要件が盛り込まれました。
普及には程遠い状態続く
オンライン診療料の新設は確かに大きな転機ではありましたが、これによってオンライン診療が一気に普及するということはありませんでした。というのも、オンライン診療料を算定するためにはいくつもの厳しい要件が課されたからです。普及を難しくしていた主な要因としては以下の3点が挙げられます。
①対象疾患が限定的
オンライン診療料の算定が可能な疾患は糖尿病や高血圧症などの生活習慣病や慢性胃炎などに限定されました。2018年までは対象疾患が限定されていなかったため、アレルギー性鼻炎や偏頭痛、月経不順などの様々な疾患で頻繁にオンラインで診察されていましたが、これらの疾患のオンライン診療は保険診療ではできなくなってしまいました。
②対面に比べ、オンライン診療料の点数が低い
同じ患者に対してオンラインで診察した場合、対面に比べてクリニックの収入は大きく減ってしまいます。オンライン診療の場合、クリニックは患者に対して「システム利用料」を請求することができます。ただ、患者の負担が重くなるため、保険診療との差を埋められるほどの金額を請求しているクリニックは多くありません。
③オンライン診療を開始できるまでの期間が長い
オンライン診療を開始するまでには最低6ヶ月間クリニックに通う必要があり、この点も利用できる患者を限定する要因となりました。
保険診療を自由診療が上回る皮肉な結果に
2018年にオンライン診療料が新設されたことでメディアなどにも取り上げられ、一時的にオンライン診療の認知度が上がり、診療報酬改定から1年後の2019年には導入クリニック数は大幅に増えました。ただ、導入クリニックの多くは自由診療を提供しているクリニックで、クロンの利用実態でみると2018年夏には算定回数ベースで自費診療が保険診療を上回る結果となってしまいました。
オンライン診療料の算定用件や点数の方向性は中央社会保険医療協議会で話合われ、2年に1度改定されます。2018~2020年の中医協でも少しずつオンライン診療の普及を促すような施策について話し合われてきました。その結果、2020年4月の診療報酬改定では以下の点などが盛り込まれることとなりました。
- オンライン診療を開始するまでの最低期間が6ヶ月から3ヶ月に
- 条件付きで片頭痛についてもオンライン診療料の算定が可能に
さらに2020年4月には薬機法が改正され、オンライン診療を実施した場合はその後の服薬指導についてもオンラインで実施できるようになりました。これにより、診療から薬の受け取りまでを自宅にいながら完結させることができるようになりました。
このように少しずつ前進していたオンライン診療ですが、COVID-19の流行拡大によりその環境は一変しました。その内容についてはまた次の機会でお伝えしたいと思います。