SaMD開発促進のために活動する業界団体の動向(1)

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 この数年で上市製品が増加している医療機器プログラム(Software as a Medical Device、以下「SaMD」)。特に2020年ごろからは、SaMDの使用環境となるプラットフォームの拡充(汎用PCだけではなくスマートフォン、スマートウォッチ、VRなど)や、AIを活用したSaMDの増加、デジタル療法と言われる領域の開発加速など、今まさに産業として活発になってきています。

 同時に、医療機器ではあるもののハードウェア主体の医療機器とは異なる性質を持つSaMDは、従来の薬事規制制度や保険制度の中で、ソフトウェア開発の良さでもある柔軟性やスピードがどうしても削がれてしまうという難しい課題もあり、2021年には厚生労働省が「DASH for SaMD」(1)という開発促進戦略を立ち上げたり、SaMDの保険上の評価を適切に行うために節を新設するなど、活発に制度変更なども行われている最中です。

 このような新しい制度形成が進む過渡期においては、開発側が現状の制度下で何に困っていてどのような制度変更あるいは新設を求めているのかといった声を行政側に積極的に届けることも重要であり、その意味において大きな役割を担うのが学術団体(いわゆる学会)や民間の業界団体になります。

 今回の記事では、SaMD開発のための環境を整えるために活動している複数団体のおおまかな比較と、その中で新たに立ち上がった民間業界団体である「日本デジタルヘルス・アライアンス(JaDHA)」(2)について取り上げます。

SaMD開発促進のための制度形成に尽力する業界団体

 SaMD開発の国内環境整備・制度形成に民間側から尽力する団体として、活発に活動している団体はいくつかあります。その中で最も大きな役割を果たしている団体は、一般社団法人 日本医療機器連合会(以下、「医機連」)(3)です。医機連は、日本国内における医療機器産業の最大かつ歴史ある業界団体です。傘下には複数の医療機器関連の業界団体が属し、国内における医療機器関連の業界団体の代表的な役割を担っています。SaMDについても2021年からWGが医機連内で立ち上がり、現在も活動が続けられています。

 一方、SaMDという領域は新規参入の企業が多く、多くの場合、従来の医療機器関連団体に所属していません。また、これらの企業は開発における知見(法制度など)が乏しく、かつ従来の規制制度では想定していなかったような性質を持つ製品開発に取り組んでいるケースも少なくありません。このような新規参入企業の声を取りまとめる団体として、この数年内に設立された業界団体は主だったものとして3つあります。1つが日本医療ベンチャー協会(以下、「JMVA」)(4)、もう1つがAI医療機器協議会(5)、そして最後がJaDHAです。

表 SaMDの制度形成のために活動する主な民間業界団体

日本デジタルヘルス・アライアンス(JaDHA)について

 JaDHAは、デジタルヘルスに関するサービス・技術の開発などを推進することで国民の健康増進と産業発展に貢献することを目的とし、2022年3月に設立されたばかりの新しい団体です。もともとは、別々に活動をしていた「製薬デジタルヘルス研究所」(以下「SDK」)と「日本デジタルセラピューティクス推進研究会」(以下「日本DTx推進研究会」)という2つの団体が統合されることによって設立された業界横断的な研究組織であり、株式会社日本総合研究所が事務局を担っています。

 初代会長には、SDK設立の発起人であり、またSDKおよびDTx推進研究会の中心的役割を担ってきた小林義広氏(田辺三菱製薬株式会社 取締役)が就任し、前身であるSDKおよび日本DTx推進研究会の各会員企業を始めとして、大手医薬品・医療機器メーカー、デジタルヘルス関連のベンチャー企業、大手IT企業など、デジタルヘルスに新規事業として取り組む企業などが新規で参加し、2022年9月8日時点で61社が加入する業界団体となっています。

図 JaDHAに所属する会員企業の内訳(JaDHA 総会資料より掲載許諾)

 JaDHAが設立された背景は様々考えられますが、新型コロナウイルスによる公衆衛生危機により、オンライン診療やヘルスケア系アプリの活用など、医療のデジタル化がコロナ禍前よりも大幅に注目されるようになったことが大きいでしょう。

 この数年、デジタルヘルスに関連する医療サービスや製品の開発や社会実装は少しずつ進んできています。一方で、製品としての存在意義や医療経済性について、従来の医療製品とは異なる特性に対する期待はされているものの、それらの特性を評価するための指標などについては十分に議論がつくされているわけではなく、製品開発と並行して、技術進展の速さに負けない柔軟性のある制度・規制を整備していかなければ、新しいタイプの製品を世の中に出していくことの難しさもある、という開発者側の声が様々な箇所から出てくるようになりました。このような課題を洗い出し、解決策を民間側でも模索するために、JaDHAが設立されました。

JaDHAの活動内容と組織体制

 JaDHAの活動内容はいくつかありますが、主には、IT企業やベンチャー企業などが持つ先進的なデジタル活用に関する知見と医薬品・医療機器メーカーが蓄積してきた医療製品開発のノウハウを融合し、医療における「デジタルならではの価値」を追求することであり、またその上で、デジタルヘルスに関する現行制度・規制上の課題克服にむけた研究や政策提言を行うことがあげられます。

 このため、JaDHAでは、テーマごとにワーキンググループ(以下「WG」)を設置し、研究の実施、政策提言や情報発信活動等の方策を議論を交わしています。現在すでに活動が始まっているWGは、JaDHAが特に喫緊の課題と捉えている「デジタル治療」に関する薬事承認関連、診療報酬関連の2つのWGです。

  1. デジタル治療に適した臨床評価基準・承認要件の新区分検討WG
  2. デジタル治療に特化した診療報酬の体系検討WG

 デジタル治療製品に関する薬事承認については、2022年6月に厚労省が「行動変容を伴う医療機器プログラムに関する評価指標(6)」を公表していますが、この行政から公開された指標の内容をJaDHAとしても確認しつつ、デジタル技術の発展に対応できるように、適切な治験デザインや短期間で合理的な薬事承認プロセスを実現するための課題をより具体詳細に検討し、デジタル治療製品の開発が促される制度の実装を目指すことを目標としています。

 また、2022年8月に開催された中医協において、キュアアップ 社の高血圧治療補助アプリが保険償還(7)されましたが、中医協で複数の委員から保険上の評価のあり方についての意見が噴出したように、いまだこの領域の製品にどのような診療報酬上の評価を行うのかについては議論がおさまっていません。JaDHAでは、従来の医療機器や医薬品の診療報酬制度を、デジタル治療に適した診療報酬制度における評価体系とはどのようなものなのかを詳細に議論を進めています。デジタル治療による新たな価値を適正に評価できる診療報酬体系の構築や上市後の継続的な製品改良や価値の測定結果に基づく価格改定の仕組みの実装が目標となっています。

図 Miroを活用したグループワークでの様子の一部(JaDHAより掲載許諾)

 それぞれのWGでは、参加する企業の代表者らが、個々で事前に洗い出した課題点などをグループワークで議論し、それぞれの課題点についてさらに深掘りしながら議論が進められています。

 時節柄、対面でグループワークを行うのはなかなか難しいということもあり、Miroというホワイトボードツールを活用して意見を出し合っています。製薬企業、医療機器メーカー、ベンチャー企業など様々な企業が集まるJaDHAでは、出てくる課題内容も様々であり、なるほどこういう問題もあるのかというお互いに新たな視点にも気づかされる機会にもなっているようです。

JaDHAの今後の活動予定

 今後のJaDHAの活動計画として、下記の研究テーマに関するWGの立ち上げも予定されています。

  1. デジタル治療の実証価値に応じた保険点数見直し制度
  2. デジタルヘルスアプリ(非医療機器)の認証制度新設
  3. デジタル治療アプリ・サービスの流通基盤の設計と実証
  4. 社員のエンゲージメントを最大化する健康経営プラットフォーム

 いずれもチャレンジングなテーマ設定ではありますが、JaDHAの大きな特徴は、前述の通り、製薬・機器・ITという異なる領域の複数企業が一堂に会する場であるということであり、業界の垣根を超えてデジタルヘルス促進のための議論が進むことが期待されています。

最後に

 今回の記事では、SaMD開発促進のために活動する業界団体として、新しく設立されたJaDHAを取り上げました。医療のデジタル化が国内外で進んでいる現在、国内におけるSaMD開発及び使用しやすい環境整備や制度、仕組み形成に対する要望は様々なところから上がっており、それらの声をまとめ、行政と議論できる環境を整えていくことは業界団体の大きな役割です。JaDHAはデジタルヘルス領域においてその役割を担う業界団体の一つであり、今後の動向が注目されます。

 また、記事にもあるとおり、この領域で活動する業界団体はJaDHAだけではありません。次回以降の記事では、これまでSaMDに関する議論をリードしている医機連やAI医療機器協議会についても取り上げたいと思います。


参考資料

(1)厚生労働省:プログラム等の最先端医療機器の審査抜本改革 DASH for SaMD(2020年11月24日)

(2)日本総研:日本デジタルヘルス・アライアンス(JaDHA)の組織・運営体制と活動計画について

(3)一般社団法人 医療機器産業連合会

(4)日本医療ベンチャー協会

(5)AI医療機器協議会

(6)厚生労働省:次世代医療機器評価指標の公表について(薬 生 機 審 発 0609第 1 号令 和 4 年 6 月 9 日)

(7)日刊薬業:【中医協】CureAppの高血圧治療アプリ、保険適用了承

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