規制改革推進会議で明らかにされた医療機器広告規制の矛盾

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2021年も残すところあと2週間ほどとなりました。コロナ禍のため、時間が長くも短くも感じられたこの2年だったように思いますが、皆様は残り僅かとなった2021年をどう過ごされるご予定でしょうか?

さて、今回の記事では、今年度の内閣府規制改革推進会議 医療・介護WGでのトピックを取り上げたいと思います。規制改革推進会議は、昨年と同じように9月から始まっており、医療・介護WGの構成委員も刷新され、昨年河野前大臣の下で議論された様々なトピックのフォローアップに加え、牧島大臣の下で新たなトピックの議論も開始されています(1)

昨年度は、コロナ禍とともに社会全体のDXが大きなテーマとなり、医療・介護WGにおいても関連するトピックがいくつも取り上げられました。SaMDやAI、電子処方箋と言ったテーマがありましたが、今年度も引き続きその流れが一定残っており、これまで開催された6回の会議の中でも繰り返し議論がなされているようです。9月27日に開催された第2回医療介護WGの議事次第(2)・議事録(3)が公開されていましたので、今回の記事では医薬品・医療機器の広告規制に関する議論について取り上げます。

2020年、新型コロナウイルス感染症の流行に伴いホームケアに注目が集まった一方で、ホームケアに必要となる医療機関外でも使用可能な測定デバイスの流通に問題が生じていました。新型コロナウイルス感染症に伴う主な症状としては、発熱、呼吸器症状があります。これらを判断する医療機器としては、体温計やパルスオキシメータがありますが、メディアなどでも取り上げられたことで需要過多となり入手困難となってしまっていたことは記憶に新しいかと思います。そして、これらの製品の広告について、実は顕在化した問題があったのです。

法律?政令?通知?

医療製品は薬機法により様々な規制をされているということについてはご存知の方も多いかと思いますが、その前にまず、法律、通知といったルールがお互いにどのような関係にあるかご存知でしょうか?

法律とは、国会で制定されるルールのことで、憲法に次ぐ強い力を持っています。憲法上、国民の権利や義務を規定する重要な事項については法律で定めなければならないとされています。国民にとっての重大事は、国民から選ばれた国会の承認プロセスを経ることが必要があるということです。

政令は内閣が制定するルール、省令は各省の大臣が制定するルールで、いずれも法律を実施する上で必要な細かいルールについて定めるものです。

通達(通知)には様々なものがありますが、多くの場合は省庁の一定の管理職(局長や課長等)から、省庁の出先機関、地方自治体や業界団体宛てに発せられます。法律や政省令について所管官庁としての解釈を示す場合もありますが、必ずしも法律や政省令に根拠のないルールが含まれたりすることもあり、行政法上問題が多いとされています。

図1 ルールの階層と当てはまる具体的な事例
(薬機法関連を例として)

ルールの階層ごとに(ごく一部にはなりますが)薬機法に関連する政令や省令、通知の事例をあげると図1のようになります。下位のルールが上位のルールに違反する場合にはその範囲で無効と考えられています。作られていく過程では、上位のルールから下位のルールに対して明確な委任がなされる場合もあれば、必ずしもそうではない場合もあります。

医療機器の広告規制の全体像について

さて、9/27に開催された第2回医療・介護WGで取り上げられた医療機器の広告規制についての課題についてですが、以前の記事(4)でも取り上げた通り、医療機器は薬機法上の定義があり、法律上医療機器に該当するかしないか、で広告に関する規制も異なってきます。規制改革推進会議の中で、意見陳述人である鹿妻洋之氏(オムロンヘルスケア社)からは、医療機器・非医療機器の広告規制の相違とそれによる課題が提示されました。

医療機器か非医療機器かで異なる広告に関する規制内容をまとめると、以下の表1のようになります。

表1 医療機器と非医療機器の広告に関する規制内容の相違
(第2回医療・介護WG公開資料(オムロンヘルスケア社鹿妻氏発表)より作成)

この中で注目すべきは、効果効能の標榜は医療機器にしか認められていないにもかかわらず、一般ユーザー向けには医療機器の広告が原則できないという逆転現象が起こっており、一般ユーザーは医療機器の適切な情報を広告で得る機会が実はないということです。 

これに関連して今回のコロナ禍により顕になった事例の一つとして、体温計とパルスオキシメータが取り上げられました。例えば、コロナの流行に伴い感染対策として店舗や施設の入り口などで用いられるようになったサーモグラフィのような非接触の体表面温度測定デバイスは実は医療機器ではなく、「体温計」として販売・広告することはできません。「非接触体表温検知器」と言ったような医療機器ではない名称で販売・広告されていたのですが、このコロナ禍の中で、実質、医療機器である体温計と同等の目的で扱われ販売され、様々なシーンで使用されることになりました。

また、パルスオキシメータについては、自宅療養の中での需要が高まる中で、メディアなどでも盛んに取り上げられましたが、そもそもパルスオキシメータは医療機器として一般消費者向けの広告が認められていません。需要の高まりの一方で一般広告ができない状況のため、正規の製品については消費者が適切な情報をもとにした購入判断が難しく、結果としてパルスオキシメータに類似する非医療機器(血球酸素飽和度測定器、血中酸素ウェルネスアプリケーションなどと言った名称で流通)が医療機器相当かのように広告され、性能の差などが十分に消費者に説明されないまま流通されました。

表2 市場で混在した製品の一例
(第2回医療・介護WG公開資料(オムロンヘルスケア社鹿妻氏発表)より作成)

医療機器と誤認しないような広告をすればいいのか?というと法的問題ではありませんが問題がないわけではありません。例えば、Apple社が展開しているApple Watchのseries6以降には「血中酸素ウェルネス」というアプリを搭載されています。これは、血中酸素濃度を測定する健康な人向けの「健康管理目的」のアプリになりますが、「血中酸素ウェルネス App の測定は、医療用(自己診断や医師への相談を含む)ではなく、あくまで一般的なフィットネスとウェルネスを目的としたものです。」(5)とわざわざ非医療機器であることを明示した上で流通しており、その点において企業に法的問題はありません。

しかしながら、医療機器と非医療機器の違い、つまり医療機器として認可を得ていない製品について医療用途での品質担保はされていないということを消費者が理解しているかは全く別の話です。パルスオキシメータは医療機器として認可を得るための要件があり、例えばですが、精度を担保するための要件として、低酸素飽和度試験(CONTROLLED DESATURATION STUDY) という実験室条件下で人に低酸素血症を誘発して行う試験が課されています。パルスオキシメータと同様の技術的機序で開発されているとしても、非医療機器として流通している類似の製品は、流通の前にこのような厳格な要件をクリアする必要がなく、本当に低酸素血症者の酸素飽和度を適切に測定できるのかが十分に評価されていないのです。

そのような背景があるにもかかわらず、個人の責任のもと個人が使用するというならまだしも、Apple Watchの血中酸素ウェルネスアプリを用いた自宅療養を推奨する医療関係者や企業、ひいては自治体もこのコロナ禍で出てきており、低酸素血症になる危険性のある自宅療養者をこれらの製品を用いて経過を見ることが果たして本当にあるべき姿なのかは大変疑問です。

Apple Watchの心電計測アプリという医療機器が出てきた一方で、同じApple Watchで使用可能な血中酸素ウェルネスアプリが非医療機器として流通されるというわかりづらい状況であるというのもまた、国民消費者にとっては理解しづらい一因かもしれません。デジタルヘルス関連の開発が加速化しており、またコロナ禍で自宅療養を余儀なくされた社会において、医療機関外における個人計測の重要性が増しました。アフターコロナにおいてもそれは後退することはないでしょうが、非医療機器と医療機器の境目はより曖昧なこの領域において、規制のあり方が従来通りで良いのかという問題が浮かび上がってきています。

ホワイトリストによる医療機器広告規制で対応可能なのか?

これらの意見陳述を受けて、厚労省及び規制改革推進会議委員により議論が交わされています。

まず、厚労省からは、現在の医療機器広告規制として、多種多様な医療機器においてはホワイトリスト型の規制(特定のタイプの製品については、例外として医療関係者以外にも広告して良いとする)を行っているという説明がありました。また、誤認させるような問題のある売り方あるいは標榜で薬機法の外で流通している未承認医療機器/非医療機器については、全国の薬事監視でチェック・取締りをしていると回答されました。 

なお、事例に上がっていたパルスオキシメータについては、表示されるSpO2の値をどう解釈するのかについては、疾患や状況ごとに異なり医療知識が必要となるため、一般向け販売とする場合においてもそのような情報提供が必要という見解が述べられました。

これらの厚労省の見解に対して、WGの印南一路委員(医療経済研究機構)と中室牧子委員(慶應義塾大学総合政策学部)からは、

  • 消費者視点では、現在のホワイトリストに挙がっているもの以上にリストに追加するべきものがあるのではないか(実際にあるから、自由に広告が許されている家庭用医療機器の名を借りて、たくさんの広告が出ているのではないか。)と考えられ、現状のやり方は「悪貨が良貨を駆逐する」リスクの方が大きいことを懸念。
  • 広告が氾濫しているような事例を厚労省で集めて、医家用医療機器の広告も一定程度認めるような発想が必要なのではないか。
  • 広告そのものというよりは、マル適マークのように、「これは医家用医療機器として承認されているものだ」とわかるような表示ができるようにするなど、そういう工夫によって今の状態よりはましになるのではないか。

という指摘が上がりました。

これに対して、厚労省からは、個別の製品ごとに性質が異なり一般の方向けに広告ができる又はできたほうがいいというものは限られているため、①医家用であり一般ユーザー向けの広告を制限すべきもの(医科用その1)、②医科用ではあるが一般ユーザー向けにも広告可能とするもの(医科用その2)③家庭用という3つのカテゴリーににわけての規制について今後検討するという提案が示されました。

医療機器の広告規制に関する通知は本当に「法律」に基づいているのか?

さて、委員からの指摘で特に注目すべきだったのは、武井一浩座長代理(西村あさひ法律事務所)から指摘の上がった医療機器広告規制に関する「法的根拠」でした。

これに対する厚労省の回答は、医療機器の広告規制は法律事項ではなく局長通知による指導である、というものでしたが、武井座長代理は、

  • 局長通知での指導は行政側の通知であり、広告を規制している法的根拠はどこにあるのか。法律で規定していないものを、どういう根拠で、行政指導の広告基準で規制できているのか?
  • 医薬品においては薬機法67条において包括的な広告規制が規定されているが、67条は医療機器は対象にしておらず、なぜ医療機器も包括的な広告規制が行われているのか。つまり、厚労省は医療機器の広告違反が実際になされたときに、なにを根拠にどういう形で罰するのか?

と重ねて質問を投げかけています。

武井座長代理は「仮に法的根拠がないのであれば、結局、真面目に従っている方だけ自主的に従っている という極めておかしな事態」と指摘しましたが、この点について厚労省からの明確な回答は出ませんでした。

さらに武井座長代理からは、グローバル化・ネット社会化が進む中で、国民消費者側はいろんなものにアクセスできてしまう、もしくは情報入手が可能な状態になっており、現在の広告規制が大きな矛盾を引き起こしている懸念が示されました。

現在の広告規制のあり方を根幹から変えないと、承認された真っ当なものが国民には情報が行き渡らず、未承認のものの情報にアクセスして購入するという矛盾に満ちた状況であり、ネットに情報があることで未承認のものが事実上買えてしまうということを前提に、この広告規制自体の在り方、国民による情報のアクセスの在り方の根幹自体を 考え直していただかないといけないという実はとても重たいテーマなのだ、と意見が締め括られています。

今後、厚労省からこの指摘に対する回答がなされることが期待されます。

医療広告の問題はSaMD/nonSaMDも例外ではない

今回のWGでは、体温計やパルスオキシメータと言ったハードウェアを主体とする製品を事例として議論がなされましたが、実はこの問題は、医療機器該当性判断に悩むことの多いプログラム製品においても切っても切り離せない問題です。

現在、スマートフォンをはじめとしたスマートデバイスは高性能のセンサーを有しており、例えばApp Storeのヘルスカテゴリを見てみると、カメラ機能などを用いた生体データ取得とそのデータを解析することで体温や脈拍、呼吸数、酸素濃度などを表示するという非医療機器のアプリも見かけます。スマートデバイスのセンサーを用いた製品は今後増加する可能性があります。

また昨今、治療用アプリの開発が進んでいますが、この領域にも同じような問題を抱えています。一般医療機器(クラスI)に相当するプログラムが医療機器としての規制から外されているというプログラム固有のルールにも関係しますが、同じ糖尿病患者用アプリでも、医療機器に該当するものとしないものがあり、そしてそれぞれに応じた広告の規制が敷かれています。医療機器として性能を評価されたアプリは一般ユーザー向けには広告できず、非医療機器のアプリは広告可能というまさにねじれとも言える現象が起きるのです。

海外の製品が簡単にダウンロードできてしまう、という点も厄介です。ハードウェアものの医療機器であれば、物理的に税関を通りますが、プログラムはそうはいきません。日本語対応した海外製アプリが安易に広告され、そして簡単に手に入ってしまう世の中なのです。

おわりに

今年度の規制改革推進会議も、昨年度同様に医療DXに関連するトピックが議論されており、「グローバル・ネット社会における医療機器の広告規制」もその一つかと考えられます。以降のWGで本件に関する厚労省の見解が改めて示される可能性もあり、今後も規制改革推進会議の動向から目が離せません。また、第2回医療・介護WGでは、医療機器の広告規制以外の議題も議論されています。もしご興味ありましたら、議事次第・議事録に目を通してみてください。

参考資料

(1)内閣府:規制改革推進会議 会議情報

(2)内閣府:規制改革推進会議 第2回医療・介護WG議事次第

(3)内閣府:規制改革推進会議 第2回医療・介護WG議事録

(4)Digital Health Times:Apple Watch ECG appの国内承認から見る「医療機器プログラム」

(5)Apple:Apple Watch Series 6 の血中酸素ウェルネス App で、血中に取り込まれた酸素のレベルを測定する

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