活発になり始めたデジタル療法の国内開発

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みなさま、大変ご無沙汰しております・・・!Digital Health Times編集者です。前回の記事公開から約4ヶ月近く経っていることに慄いており、また編集者としての力量不足を感じております。不定期ではございますが、今後も記事を公開していきますので、どうぞよろしくお願いいたします。

さて、今回の記事は、10月9、10日に開催された第25回遠隔医療学会(1)をトピックに取り上げます。新型コロナウイルス感染症の流行により、昨年は完全オンラインとなった遠隔医療学会ですが、今年はオンラインと現地のハイブリッド開催となり、編集者も現地参加しました。久々の現地参加は、色々な方とお会いして交流を深められる機会となりました。オンライン参加も現地参加も、それぞれで良い面がありますね。

今回の遠隔医療学会で注目したことの一つは、オンライン診療・オンライン服薬指導に関連するセッションの増加でした。発表を伺っていても、コロナ禍において、どのようにオンライン診療を工夫して取り入れていったか、またその結果どのような効果をもたらしたのかなどが活発に議論されていたようです。それだけ新型コロナウイルス感染症が社会や医療に与えた影響はあったのだということでしょう。しかし本記事では、オンライン診療ではなく、デジタル療法分科会が開催したシンポジウムについて触れたいと思います。

遠隔医療学会「デジタル療法分科会」とは?

遠隔医療学会には様々な分科会が存在しますが、その中の一つとして「デジタル療法分科会」(2)があります。この分科会は、昨今国際的にも注目を集めているデジタル療法の分野について、普及啓発・診療モデルの検討・エビデンス創出に取り組んでいる分科会になります。

英文名称SIG Digital Therapeutics / Digital Therapy
設立目的医薬品や医療機器とは異なるアプリを活用した新たな治療法(デジタル療法)に関する普及啓発・診療モデルの検討・エビデンスの創出に取り組む。
分科会長佐竹晃太
分科会長所属日本赤十字社医療センター/CureApp Institute
活動計画①普及啓発:国内外での他の学会での、治療用アプリ・デジタル療法に関する発表など
②診療モデルの検討:デジタル療法適正使用に関するステートメント作成に向けて、分科会で協議する
③エビデンスの創出:治療用アプリやオンライン診療やIoTデバイスなどの各種臨床試験でのエビデンス構築に努める
遠隔医療学会 デジタル療法分科会

今回の遠隔医療学会でもこの分科会主催で、デジタル療法を産官学の視点で議論する形でシンポジウムが開催されました。

そもそもデジタル療法とは何か?

デジタルヘルス領域では様々な用語が飛び交っているため、まず用語の整理をしておきましょう。米国のデジタルヘルス関連業界団体は、この領域でしばしば使われるdigital health(デジタルヘルス)、digital medicine(デジタル医療)、digital therapeutics(デジタル療法、DTx)という3つの用語を以下のように定義しています。(3)

用語整理(DTx Allianceの資料をもとにMICIN社作成)

例をあげると、健康管理アプリやオンライン診療アプリはデジタルヘルス製品、スマートウォッチ型心電図測定アプリや画像診断AIはデジタル医療製品、禁煙療法アプリや糖尿病治療用アプリはデジタル療法製品です。それぞれの違いは、求められるエビデンスと規制体系であり、DTx製品は基本的にどの国でも医療機器として規制対象となります。

なぜデジタル療法が注目されているのか?

国内外でデジタル療法が注目され始めたのは2010年代前半です。FDAで糖尿病治療用アプリが認可されたことや、同時期に糖尿病治療用アプリを使用することでHbA1cを低下させることができるといった臨床的アウトカムを示す論文が出始めたことで、医薬品や外科的治療が中心だったこれまでの医療に加え、デジタルツールを活用することで治療効果が見込まれるDTxが注目されるようになりました。デジタル療法の魅力は新たな治療法となるということだけでなく、その医療経済性への期待もありました。医薬品開発に比べればDTxの開発にかかるコストが大幅に抑えられるという点も注目され、各国で様々な企業が開発に着手するようになりました。

そのような中で、特に開発のスピードが早かったのはアメリカですが、ドイツも国を挙げて産業育成に取り組んでいます。IQVIAの報告(4)によると、2021年6月時点で、米国で9製品、ドイツで13製品、それぞれ認可を受けている製品が出てきており、その後も各国認可された製品が増えています。(ドイツの取り組みについては過去記事(5)をご参照ください。)

また、DTxというと、スマートフォンアプリを想像するケースが多いのですが、今や活用されるプラットフォームはスマートフォンだけではなく、スマートウォッチやVR機器でのDTx製品が出始めており、今後も各国各社の動向は要注目です。

DTxに関わる様々な課題

DTxは比較的新しい研究開発分野であるため、様々な視点から議論が必要です。

学会のシンポジウムでは、厚労省から植木貴之氏がオンラインで登壇し、「DASH for SaMD」という2020年に厚労省が公表したプログラム医療機器の開発促進に関する戦略パッケージの紹介や、医療機器の保険償還の考え方から見えるDTx製品の保険償還について、規制当局からの観点での説明がありました。

産業界側も規制当局の動きに呼応する形で、医療機器の業界団体である日本医療機器産業連合会(医機連)を中心としたワーキンググループを設立し、DTx製品を含めたプログラム医療機器製品について、規制・保険の観点からどのような課題があり、改善を規制当局に求めていくのかという議論を始めています。薬事法から薬機法に法改正されてから7年経過しましたが、当時は想定していなかったようなプログラム医療機器製品が国内外で開発され始めており、それらに対して適切な規制のあり方を模索していく必要があります。(6)

例えば、製品管理という点で、患者自身が治療に参加し汎用デバイスというプラットフォーム上で扱われるというところから、従来の医療機器とは比較にならない頻度でのアップデート対応が求められること、セキュリティへのより綿密な対応が求められることなども、DTx製品特有の問題と言えるかもしれません。

また、DTx製品に限らずプログラム製品全般の課題として、医療機器該当性やクラス分類に関する課題はこの領域の大きな課題の一つですが、すでにあるルールの変更は様々な方向に波及があるため慎重な議論が必要です。この点についてはまた別の機会にご紹介したいと思います。

DTx製品は医療機器であるため、有効性と安全性の確認を経て薬事承認を得ることが必要となります。それらをどのように示していくのかは個々の製品によって異なるでしょうが、少なくとも臨床評価として比較対照試験が求められるでしょう。(この点については、国によって異なり、ドイツのように臨床評価を市販後に行うとする抜本的な取り組みを行っている国もあります。)

臨床評価を行っていく上では、やはりアカデミアと開発企業の連携が不可欠であり、双方連携し、エビデンスの蓄積に尽力していくことが求められますし、そのための人材育成として、産官学交流は重要と言えます。シンポジウムでも、登壇者である野村 章洋氏(金沢大学附属病院)からアカデミアの視点からの指摘がありましたが、デジタルヘルス製品開発への注力を始めている大学は国内で複数出てきており、今後研究が加速することが期待されます。

さらに、医療機器として流通させる以上、国内においてはビジネス戦略として保険償還を目標にすることが基本路線となりますが、現時点で保険償還されているDTx製品は1製品のみであり、今後生まれてくるだろうDTx製品がどのような方針で保険上の評価がなされるのかはまだ議論の最中にあります。こちらも医機連を中心とした産業界からの要望の声を参考としつつ、現在中医協で12月を目処に一定の方針を出すことを目標に議論が続けられています。(7)

なお、デジタル製品は物理的流通を要しないことから、容易に国境を越えて海外展開を目指せるのではないかということが一部期待されていますが、一方で、各国で規制体系や医療・生活環境・文化・言語が異なることから、他国で開発したものを日本で展開することは決して容易ではありません。その逆も然りで、日本で開発したものを海外展開していく上でも、各国の制度等を十分に考慮した上で戦略を立てていく必要があります。各国の制度が流動的となっている中、各国の開発企業も国際展開戦略には苦慮していることが見て取れます。

おわりに

遠隔医療学会で行われた分科会シンポジウムでは、国内での開発がようやっと形になり始めたデジタル療法について産官学の観点から議論されました。海外ではドイツのように産業育成の観点から積極的な制度設計をとる国も出てきているなど、どの国も動向が流動的です。また、2020年に薬事承認された禁煙治療デバイスを皮切りとして、国内でもこれから複数製品の承認申請が期待されています。DTxという新しい分野の研究開発が、産官学で盛り上がっていくことを期待して止みません。

参考資料

(1)第25回遠隔医療学会学術大会

(2)遠隔医療学会:分科会一覧

(3)DTxAlliance:DIGITAL HEALTH INDUSTRY CATEGORIZATION

(4)The IQVIA Institute:Digital Health Trends 2021

(5)Digital Health Times:DVGから見えるドイツのデジタルヘルスへの期待

(6)医機連:【Web配信】プログラム医療機器に関する説明会

(7) 厚生労働省:中央社会保険医療協議会保険医療材料専門部会(第116回)議事次第

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