【RDD企画】オンライン診療は希少疾患の救いになるか?希少疾患当事者対談【前編】

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2月といえば、RDD(Rare Disease Day)月間!(1)

ということで、今回の記事では、RDD企画として行ったインタビュー記事を公開します。

新型コロナウイルス感染症の流行をきっかけに、時限的にオンライン診療の規制緩和がなされてから2年近く経ちました。2022年1月に開催された中央社会保険医療協議会・総会(2)での議論により、オンライン診療に関わる制度・条件は今まさに大きく変わろうとしています。(※本件については別の機会に記事を公開予定です。)

一方、コロナ禍とは関係なく、オンライン診療の普及を求めて活動をされてきた方々がいらっしゃいます。それは、希少疾患の当事者として精力的に活動されてきた患者会の方達です。今回の記事では、以前の記事(3)で取り上げたRDDをきっかけとしてMICINが出会った、患者会で活動されているお二人に伺ったお話を前編・後編でお届けします。(インタビューは2021年6月に実施したものになります。)

前編のこの記事では、希少疾患ゆえの専門医不足によって起こる診断・治療までの道のりの長さや、薬の処方のハードル、オンライン診療に期待したいことについてまとめます。


大木里美さま

中枢性尿崩症(CDI)の会(4) 副代表。

一般社団法人日本遠隔医療学会、市民に遠隔医療をやさしく学んでもらう分科会 会長、RDDオンライン診療実行委員会 代表。

当事者として患者会で精力的に活動をするほか、遠隔医療の普及を目指して情報発信をしている。


駒沢典子さま

NPO法人日本ナルコレプシー協会(なるこ会) (5)事務局長。

筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構の専門医との交流や、海外の患者会情報にもアンテナを貼り、希少疾患患者の生きやすい社会のために活動している。2021年のRDDオンライン診療のイベントに参加。


「専門医に出会えない」「病院に足を運びにくい」という最初のハードル

大木さま(以下、敬称略):中枢性尿崩症を専門とする医師は、全国に10人以下しかいらっしゃらず、一度も誤診されずに診断が下りる方が珍しいと言われています。私も、正しい診断が下りるまで3年半もかかりました。

私の場合は妊娠・出産を機に発症したので、当時住んでいた地域の病院では、「育児ノイローゼ」ではないかと言われてしまって。

尋常ではない尿量と喉の乾きに24時間襲われるので、自分では明らかにおかしいと感じていたのですが、同じ病気の人に出会うことなんてまずなくて、心身ともにどんどん追い詰められていきました。

3年半後に、隣の県にある大病院でやっと診断が下りてからも、通院には往復4時間前後かかっていて。体調が悪いから行くはずの病院は、私にとっては体調が良くないと通えない場所になってしまっていました。オンライン診療などの「遠隔医療」に期待を寄せて活動しているのは、そういった経緯もあってのことです。

駒沢さま(以下、敬称略):私の場合は、奇跡的に受診時に診断が下りたのですが、そもそも初診に行くまでに何年も経ってしまいました。異常な眠気を感じるようになったのは小学生の頃で、「明らかにおかしい」と自覚するようになったのは中学生になってからでした。ただ、「眠い」というのを親に相談したら、生活が不規則だったり部活のやりすぎなのではと言われるだけな気がして、どうしても言い出せなくて。

仕方なく、自宅にあった家庭の医学の本で調べてみたら、「稀にこういう病気がある」という記述を見つけて、症状を読んで、自分はこれなんじゃないかと。でも、その本には精神科の受診が必要だと書いてあって。

当時は、今よりも精神科に行くハードルがかなり高く感じられる風潮だったし、大きな病院にしか精神科はなかったので、高校生になったら必ず自分で行くと決め、それまではひたすらやり過ごす日々でした。

さらに、ナルコレプシーの診断が下りてからも、自分の症状に合った薬を処方してもらえるようになるまでは、専門医の先生を探すのに苦労しました。ナルコレプシーの特徴として起こる情動脱力発作を抑える薬を、なかなか処方してもらえなかったんです。

専門医にアクセスできるか否が、その後の明暗を分けてしまう

大木:希少疾患においては、診断が下りても薬に関することでまた大きなハードルがありますよね。中枢性尿崩症も、薬の使用量や服用のタイミングには個人差があるので、そこが上手く調整できずに苦しんでいる患者さんが多いです。

例えば、そういった薬に関しては電子カルテなどを情報共有できるようになれば、遠方の専門医に相談したり、通える範囲の病院で薬をもらうこともできそうですよね。中枢性尿崩症は希少疾患ゆえに、患者に適切な服薬指導をしていない先生も少なからずおり、困っている患者の声をよく聞きます。

駒沢:本当にそう思います。私は、最初にかかっていた先生に「これ以上薬を出すことはできない」と言われて、大きな本屋さんに行って専門書を読み漁った時期がありました。もっと他に薬があるはずだと思っていたところに、新聞で専門医の記事を見つけて、やっとその方の元に辿り着いて。私のようにとことん調べる患者さんは少ないので、適切な薬を処方できる専門医へのアクセスは、なかなか難しいのが現状です。

さらに、ナルコレプシーの薬は一般の方が服用すると依存性があるため、規制がされているんです。免許を持っている先生でないと処方できないので、そうでない先生だと、本来の選択肢にあるはずのお薬を全て提案することができません。中枢性尿崩症ほどではないとはいえ、ナルコレプシーなどの過眠症の専門医は全国に30人ほどしかおらず、詳しい先生に診てもらえるかどうかで、病気との付き合い方がガラリと変わってしまうんです。

大木:また、妊娠・出産時や入院したり手術をする際は、それまでの薬や服用方法では対処できないこともあります。そんなときに専門医に意見を仰いで、かかりつけ医や入院先の医師と連携が取れたら、患者としては安心ですよね。

駒沢:同感です。私たちの抱える希少疾患は、基本的には一生付き合っていくものだからこそ、生活に変化があったときの薬の調整でお困りの方も多いですし。

希少疾患における診療の理想とオンラインの価値

駒沢:私たちの患者会では、通える範囲に専門医の少ない環境で疾患を発症してしまった場合の理想としては、初診から薬の調整までは専門医に診断してもらい、ある程度調整ができるようになったら、薬を処方してくれる近場の先生を紹介してもらうのが、現時点ではベストだとお話ししています。

大木:そうですね。やっぱり、対面診断でないと叶わないものもありますし、なにがなんでもオンライン診療にするべきとは私も思っていません。ただ、必要な人が必要なタイミングでオンライン診療が受けられる社会になることによって、救われる希少疾患患者は本当にたくさんいるんですよね。RDDオンライン診療のイベントでは、オンライン診療の知識や最新情報を学んでいただく講座や、そういった声を発信し続けることによって少しでもオンライン診療という可能性の道を切り拓いていきたいと思っています。

▶後編へ続く(2月中旬以降公開予定)

参考資料

(1)Rare Disease Day(世界希少・難治性疾患の日)

(2)厚生労働省:中央社会保険医療協議会 総会(第514回) 議事次第

(3)Digital Health Times:RDDと希少・難治性疾患におけるオンライン診療の取り組み

(4)中枢性尿崩(CDI)の会

(5)NPO法人日本ナルコレプシー協会(なるこ会)

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